オはやめにした方が……」
「いいえ私こそ、そんな危険な遊戯《ゲーム》に耽《ふけ》ることだけはお断りいたしますわ」と伸子は、あくまで意地強い態度で云い切った。
「真平《まっぴら》ですわ――あんな恐ろしい化竜《ドラゴン》に近づくなんて。だって、お考え遊ばせな。たとえば私が、その人物の名を指摘したといたしましょう。けれども、そんな浅墓《あさはか》な前提だけでもって、どうして、あの神秘的な力に仮説を組み上げることがお出来になりまして。かえって私は、鎧通し――という重大な要点に、貴方がたの法律的審問を要求したいのです。いいえ、私自身でさえ、自身が類似的には犯人だと信じているくらいですわ。それに、今日の事件だってそうですわ。あの赤毛の猿猴公《えてこう》が射られた狩猟風景にだっても、私だけには、不在証明《アリバイ》というものがございませんものね」
「それは、どういう意味なんです? いま貴女は、赤毛の猿猴公《えてこう》と云われましたね」と検事は注意深そうな眼をして聴き咎《とが》めたが、秘かに心中では、案外この娘は年齢の割合に手強いぞ――と思った。
「それが、また厳粛な問題なんですわ」伸子は口辺《こうへん》を歪めて、妙に思わせぶりな身振をしたが、額には膏汗《あぶらあせ》を浮かせていて、そこから、内心の葛藤が透いて見えるように思われる。いかに、絶望から切り抜けようと※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》いているか――すでに伸子は、渾身《こんしん》の精力を使い尽していて、その疲労の色は、重たげな瞼の動きに窺《うかが》われるのだった。しかし、彼女はズケズケと云い放った。「だいたいクリヴォフ様が殺されようたっても、悲しむような人間は一人もいないでしょうからね。ほんとうに、生きていられるよりも殺されてくれた方が……。その方がどんなに増しだと思っている人は、それは沢山あるだろうと思いますわ」
「では、誰だかその名を云って下さい」熊城はこの娘の翻弄《ほんろう》するような態度に、充分な警戒を感じながらも、思わずこの標題には惹《ひ》きつけられてしまった。「もし特に、クリヴォフ夫人の死を希っているような人物があるのなら」
「たとえば私がそうですわ」伸子が臆する色もなく言下に答えた。「何故なら、私が偶然にその理由を作ってしまったからでございます。以前内輪にだけでしたけれども、算哲様の御遺稿
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