rハインド・ステイヤス》 すなわち大階段の裏[#「大階段の裏」に傍点]だったからだ。解読を終ると法水は静かに云った。
「そこで、大階段の裏――という意味を詮索してみたが、それには、ほとんど疑惑を差し挾む余地はない。あそこには、テレーズ人形を入れてある室と、それに隣り合っている小部屋しかないからだ。それに、恐らくその解答も、大時代な秘密築城《ボーデルヴィッツ》風景にすぎまいと思うね――隠扉《かくしど》、坑道。ハハハハハ、だいたいどういう意志で、ディグスビイが十二宮《ゾーディアック》に秘密記法を残したろうと、そんなことはこの際問題ではない。サア、さっそくこれから黒死館に行って、クリヴォフの|肉附け《モデリング》をやろうじゃないか」と法水が喫《す》いさしを灰皿の上で揉み潰すと、検事は少女《おとめ》のように顔を紅くして、法水に云った。
「ああ、今日の君はロバチェフスキイ([#ここから割り注]非ユークリッド幾何の創始者[#ここで割り注終わり])だよ。いかにも、天狼星《シリウス》の最大視差《マキシマム・パララックス》が計算されたのだから!」
「いや、その功労なら、シュニッツラーに帰してもらおう」法水はすこぶる芝居がかった身振をして、「不在証明《アリバイ》、採証、検出――もうそんなものは、維納《ウインナ》第四学派以後の捜査法では意味はない。心理分析《プシヒョアナリーゼ》だ。犯人の神経病的天性を探ることと、その狂言の世界を一つの心像鏡として観察する――その二点に尽きる。ねえ支倉君、心像《ゼーレ》は広い一つの国じゃないか。それは混沌《ダス・カーオス》でもあり、|またほんの作りもの《ヌール・キュンストリッヘス》でもあるのだ」とシュニッツラーを即興的に焼直したのを口吟《くちずさ》んでから、彼は一つ大きな伸びをして立ち上った。
「サア熊城君、終幕の緞帳《カーテン》を上げてくれ給え。恐らく今度の幕が、僕の戴冠式になるだろうからね」
 ところがその時、喝采が意外な場所から起った。突然電話の鈴《ベル》が鳴って、その一瞬を境に、事態が急転してしまった。クリヴォフ夫人に帰納されていった法水の超人的な解析も、この底知れない恐怖悲劇にとっては、たかが一場の間狂言《ツヴィッシェンシュピール》にすぎなかったのである。法水は、静かに受話器を置いた。そして、血の気の失せきった顔を二人に向けて、なんとも云えぬ悲痛
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