ヤる豊富に認めることが出来るのだよ。ところで、その厳粛な顔をした悪戯者《いたずらもの》が、だいたいどういう具合に人間神経の排列を変形させてゆくものだろうか、ここにちょうど恰好な例があるのだがね」と、その奇矯な推論から、独断に見える衣を脱がせようとして、彼はまず例証を挙げた。「これは今世紀の初め、ゲッチンゲンに起った出来事なんだが、オット・ブレーメルという、いかにもウエストファリア人らしい鋭感的《センシブル》な少年が、同地にあるドミニク僧団の附属学園に入学したのだ。ところが、そのボネーベ式の拱貫《きょうかん》が低く垂れ、暗く圧し迫るような建物が、たちまち破瓜期の脆弱《ぜいじゃく》な神経を蝕《むしば》んでいったのだ。最初は、建物の内外に光度の差がはなはだしいことが、彼に時として、偶然にしてはあまりに不思議な残像を見せる場合があった。そして、あげくに幻聴を聴くほどの症状になったと云うのは、彼の室の窓外が鉄道線路であって、そこを通過する列車の響が、絶えず Resend《レゼンド》 Blehmel《ブレーメル》([#ここから割り注]気狂いブレーメルの意[#ここで割り注終わり])と繰り返すように聴かれたからだったのだ。しかし父親《てておや》が息子の病状に驚いて自宅へ引き取ったので、そこでブレーメルの精神状態が、からくも崩壊を免れたのだ。それがまた、奇蹟に等しいのだよ。寄宿舎を出てしまうと同時に、彼には幻視も幻聴も現われなくなり、間もなく健《すこ》やかな青春を取り戻すことが出来たのだからね。ねえ熊城君、君は刑法家じゃないのだから、あるいは知らないかもしれないが、刑務所の建築様式によっては、拘禁性精神病が続出するのも、また、それが皆無なのもあるそうだよ」
法水は、そこで新しい莨《たばこ》を取り出して一息入れたが、依然知識の高塔を去らずに、続いて、よりも痛烈な引例に入った。
「時代は十六世紀の中葉フェリペ二世朝だが、この一つは、淫虐的《ザディスティッシュ》な嗜血癖の、むしろ異例的標本とでも云うものなんだ。西班牙《スペイン》セヴィリアの宗教裁判所に、糺問《きゅうもん》官補のフォスコロという若い僧《キャノン》がいたのだ。ところが、彼の糺問法がすこぶる鈍いばかりでなく、万聖節《ばんせいせつ》に行われる異端焚殺行列《アウト・デ・フェ》にも恐怖を覚えるという始末なので、やむなく宗教裁判副長の
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