l察はついに徒労ではなかったのだ。散々《さんざん》ぱら悩まされた五芒星呪文の正体が、ものもあろうに、ルイ十三世朝|機密閣《ブラック・キャビネット》史の中から発見されたのだよ。いや言葉を換えて云おう。当時不即不離の態度だったけれども、新教徒の保護者グスタフス・アドルフス(瑞典《スウェーデン》王)と対峙していたのが、有名な僧正宰相リシュリュウだったのだ。実にこの事件の本体が、あの陰険きわまりない暗躍の中に尽されているのだよ。ところで支倉君、君は、リシュリュウ機密閣《ブラック・キャビネット》の内容を知っているかね。暗号解読家のフランソア・ヴィエトやロッシニョールは? 錬金魔法師兼暗殺者のオッチリーユは? つまり、問題はこの悪党僧正《ブラック・モンク》オッチリーユにあるのだが……ああ、なんという薄気味悪い一致だろうか。被害者の名も[#「被害者の名も」に傍点]、犯人の名も[#「犯人の名も」に傍点]、あの竜騎兵王を斃したリュッツェン役の戦歿者中に現われているのだがね[#「あの竜騎兵王を斃したリュッツェン役の戦歿者中に現われているのだがね」に傍点]」
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(註)一六三一年瑞典王グスタフス・アドルフスは、独逸《ドイツ》新教徒擁護のために、旧教聯盟とプロシァにおいて戦い、ライプチッヒ、レッヒを攻略し、ワルレンシュタイン軍とリュッツェンにて戦う。戦闘の結果は彼の勝利なりしも、戦後の陣中においてオッチリーユが糸を引いた一軽騎兵のために狙撃せられ、その暗殺者は、ザックス・ローエンベルグ侯のためその場去らずに射殺せらる。時に、一六三二年十一月十六日。
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瞬間検事と熊城は、自分ではどうにもならない眩惑の渦中に捲き込まれてしまった。犯人の名――それはすなわち、この事件の緞帳《カーテン》が下されるのを意味する。しかし、古今東西の犯罪捜査史をあまねく渉猟したところで、とうてい史実によって犯人が指摘され、事件の解決が下されたなどという神話めいた例《ため》しが、従来《これまで》にわずかそれらしい一つでもあったであろうか。それであるからして、二人は駭《おどろ》き呆れ惑い、ことに検事は、猛烈な非難の色を泛《うか》べて、実行不可能の世界に没頭してゆく法水を、厳然と極めつけるのだった。
「ああまた、君の病的精神狂乱かね。とにかく、洒落《しゃれ》はやめにしてもらお
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