ニ貴方は、デイやグラハムの黒鏡魔法《ブラック・ミラー・マジック》を御存じでしょうか」とひとまず念を押してから、烟《けむり》を吐いて語りはじめた。
「先刻《さっき》も云ったとおり、その解語《キイ》と云うのが、階段の両裾にあった二基の中世甲冑武者なんです。勿論装飾用のもので、たいした重量ではありませんが、あれは、御承知のように、ちょうど七時前後――折柄傭人達の食事時間を狙って、一足飛びに階段廊まで飛び上ってしまったのです。それに、双方とも長い旌旗《せいき》を持っているのですが、僕は最初、それを旌旗の入れ違いから推断して、犯人の殺人宣言と解釈したのです。しかし、ちょっと神経に触れたものがあったので、ひとまず二旒《にりゅう》の旌旗と、その後方にあるガブリエル・マックスの『腑分図』とを見比べて見ました。勿論画中の二人の人物には、津多子夫人の在所《ありか》を指摘するものはなかったのですが、その時ふと、二旒の旌旗が画面のはるか上方を覆うているのに気がついたのです。そこに、ダマスクスへの道を指し示している、里程標があったのですよ。つまり、その辺一帯の、一見|絵刷毛《ブラッシュ》を叩き付けたような、様々な色があるいは線をなし塊状をなしていて――色彩の雑群を作っている所が、すなわちそれだったのです。ところで、点描法《ポアンチリズム》の理論を御存じでしょうか。色と色を混ぜる代りに、原色の細かい線や点を交互に列べて、それをある一定の距離を隔てて眺めさせると、始めて観者の視覚の中で、その色彩分解が綜合されるのを云うのですよ。勿論、それより些《わず》かでも前後すれば、たちまち統一が破れて、画面は名状すべからざる混乱に陥ってしまうのです。つまりそれが、ルーアン本寺の門を描いたモネエの手法なのですが、それをいっそう法式化したばかりでなく、さらに理論的に一段階進めたものと云うのが、あの画中に隠されてあったのです」と法水はそこまで云うと、鋼鉄扉を閉じさせて、「では、一つ実験してみますかな――あの混乱した雑色の中に何が隠されているのか? 最初に熊城君、その壁にある三つの開閉器《スイッチ》を捻《ひね》ってくれ給え」
 さっそく熊城が法水の云うとおりにすると、最初に「腑分図」の上方にある灯が消え、続いて、右手のド・トリー作「一七二〇年|馬耳塞《マルセーユ》の黒死病《ペスト》」の上方から、右斜めに落ちている一
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