しかったであろう。法水の神経運動《ナアヴァシズム》が微妙な放出を続けて、上りつめた絶頂がこれだったのか。しかし、検事も熊城も痺《しび》れたような顔になっていて、容易に言葉も出なかった。と云うのは、これがはたして法水の神技であるにしても、とうていそのままを真実として鵜呑《うの》みに出来なかったほど、むしろ怖れに近い仮説だったからである。真斎は手働四輪車を倒れんばかりに揺って、激しく哄笑《こうしょう》を始めた。
「ハハハハハ法水さん、下らん妖言浮説は止めにしてもらいましょう。貴方が云われる津多子夫人は、昨朝早々にこの館を去ったのですじゃ。だいたい、どこに隠れていると云われるのです。人間|業《わざ》で入れる個処《ところ》なら、今までに残らず捜し尽されておりましょう。もし、どこかに潜んで居るのでしたら、儂《わし》から進んで犯人として引き出して見せますわい」
「どうして、犯人どころか……」法水は冷笑を湛えて云い返した。「その代り鉛筆と解剖刀《メス》が必要なんですよ。そりゃ僕も、一度は津多子夫人を、風精《ジルフェ》の自画像として眺めたことはありましたがね。ところが田郷さん、これがまた、悲痛きわまる傍説《エピソード》なんですよ。あの人は、死体となってからも、喝采《かっさい》をうける時機を失ってしまったのですからね。それが、昨夜の八時以前だったのです。その頃には既《とう》に津多子夫人は、遠く精霊界《フェアリー・ランド》に連れ去られていたのです。ですから、あの人こそ、ダンネベルグ夫人以前の……、つまり、この事件では最初の犠牲者だったのですよ」
「なに、殺されて※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」真斎は恐らく電撃に等しい衝撃《ショック》をうけたらしい。そして、思わず反射的に問い返した。「す、すると、その死体はどこにあると云うのです?」
「ああ、それを聴いたら、貴方はさぞ殉教的な気持になられるでしょうが」と法水は、いったん芝居がかった嘆息をして、「実を云うと、貴方はその手で、死体の入っている重い鋼鉄|扉《ど》を閉めたのでしたからね」とキッパリ云い放った。
 とたんに三つの顔から、感覚がことごとく失せ去ったのも無理ではない。法水は、あたかもこの事件が彼自身の幻想的《ファンタスチック》な遊戯ででもあるかのように、吐き続ける一説ごとに、奇矯な上昇を重ねてゆく。そして、ちょうどこの超頂点《ウルト
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