目は?」
 そう云って法水は、しばらく相手を正視していたが、真斎の顔は、しだいに朦朧《もうろう》とした絶望の色に包まれていった。法水は続けて、
「それから僕は、その『ゴンザーゴ殺し』の|三たび《スライス》を再び俎上《そじょう》に載せて、今度は反対に、下降して行く曲線として観察したのです。そして、いよいよその一語に、供述の心理を徹頭徹尾支配している、恐ろしい力があるのを確かめることが出来ました。そのために、ポープの『|髪盗み《レープ・オヴ・ゼ・ロック》』の中で一番道化ている、|異常に空想が働き、男自ら妊れるものと信ずるならん《メン・プルーヴ・ウイズ・チャイルド・アズ・パワーフル・ファンシイ・ウォークス》――を引き出して、毫《ごう》も心中策謀のないのを、貴方に仄《ほの》めかしたのです。ところが、その次句の、|処女は壺になったと思い《エンド・メイド・ターント・ボトルス》、|三たび声を上げて栓を探す《コール・アラウド・フォア・コークス・スライス》――で答えた貴方は、その中に thrice《スライス》 という字があるのをほとんど意識しないかのように、平然としかも、きわめて本格的な朗誦法で口にしているではありませんか。勿論それは、弛緩した心理状態にありがちな盲点現象です。さらに、前後の二つを対比してみると、同じ thrice《スライス》 一字でも、『ゴンザーゴ殺し』に現われているのと『|髪盗み《レープ・オヴ・ゼ・ロック》』のそれとでは、心理的影響において、いちじるしい差異があるのを測ることが出来たのでした。そこで僕は、結論をよりいっそう確実にするために、今度はセレナ夫人から、昨夜この館にいた家族の数を引き出そうと試みました。ところが、僕の云ったゴットフリートの――|吾今ただちに悪魔と一つになるを誰か妨げ得べき《ウァス・ヒエルテ・ミッヒ・ダス・イヒス・ニヒト・ホイテ・トイフェル》――に対して、セレナ夫人は、その次句の――|短剣の刻印に吾身は慄え戦きぬ《ゼッヒ・シュテムペル・シュレッケン・ゲエト・ドゥルヒ・マイン・ゲバイン》――で答えたのです。しかし、何故か sech《ゼッヒ》([#ここから割り注]短剣[#ここで割り注終わり])と云うと狼狽《ろうばい》の色が現われて、しかも、|短剣の刻印《ゼッヒ・シュテムペル》と、頭韻《アリテレーション》を響かせて一つの音節《シラブル》にして云うと
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