には、御申し付けどおりに渡しておきましたが」と復命すると、それに法水は、尖塔にある十二宮の円華窓《えんげまど》を撮影するように命じてから、その私服を去らしめた。熊城は当惑げな顔で、微かに嘆息した。
「ああまた扉《ドア》と鍵か、犯人は呪《まじな》い屋か錠前屋か、いったいどっちなんだい。まさかにジョン・デイ博士の隠顕扉が、そうザラにあるという訳じゃあるまい」
「驚いたね」法水は皮肉な微笑を投げた。「あんなもののどこに、創作的な技巧があってたまるもんか。そりゃ、この館から一歩でも外へ出れば、無論驚くべき疑問に違いないさ。けれども、先刻《さっき》君は書庫の中で、犯罪現象学の素晴らしい書目《ビブリオグラフィー》を見たはずだっけね。つまり、その扉を鎖させなかった技巧というのが、この館の精神生活の一部をなすものなんだ。庁へ帰ってからグロース(註)でも見れば、それで何もかも判ってしまうのだよ」

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(註)法水がグロースと云ったのは、「予審判事要覧」中の犯人職業的習性の章で、アッペルトの「犯罪の秘密」から引いた一例だと思う。以前召使だった靴型工の一犯人が、ある銀行家の一室に忍び入り、その室と寝室との間の扉を鎖さしめないために、あらかじめ閂《かんぬき》穴の中に巧妙に細工した三稜柱形の木片を插入して置く。それがために銀行家は、就寝前に鍵を下そうとしても閂が動かないので、すでに閉じたものと錯覚を起し、犯人の計画はまんまと成功せしと云う。
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 法水があえて再言しようとはせず、そのまま不可避的なものとして放棄してしまったことは、平生検討的な彼を知る二人によると、異常な驚愕《きょうがく》に違いないのだった。が畢竟《ひっきょう》するところ、この事件の深さと神秘を、彼が書庫において測り得た結果であると云えよう。検事は再び法水の粋人的な訊問態度をなじりかかった。
「僕はレヴェズじゃないがね。君にやってもらいたいのは、もう動作劇《ハンドルングスドラマ》だけなんだ。ああいう恋愛詩人《ツルヴェール》趣味の唱《うた》合戦はいい加減にして、そろそろクリヴォフ夫人がそれとなしに仄《ほの》めかした、旗太郎の幽霊を吟味しようじゃないか」
「冗談じゃない」法水は道化《おどけ》たようななにげない身振をしたが、その顔にはいつもの幻滅的な憂鬱が一掃されていた。
「どうして、僕の
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