スビイという男はたいしたものじゃない。たぶん彼奴《あいつ》は魑魅魍魎《ポルターガイスト》だろうぜ」
「どうして、やつは大魔霊《デモーネン・ガイスト》さ」と法水は意外な言《ことば》を吐いた。「あの弱音器記号には、中世迷信の形相|凄《すさま》じい力が籠《こも》っているのだよ」
楽譜の知識のない二人には、法水が闡明《せんめい》するのを待つよりほかになかった。法水は一息深く煙を吸い込んで云った。
「勿論、Con《コン》 Sordino《ソルディノ》 では意味をなさないのだが、それには、一つだけ例外があるのだ。と云うのは、僕が先刻《さっき》鎮子を面喰《めんくら》わせた、『パルシファル』なんだよ。ワグネルはあの楽劇の中で、フレンチ・ホルンの弱音器記号に|+《よこじゅうじ》という符号を使っている。ところが、それは傍ら棺龕《カタファルコ》十字架の表象《シムボル》でもあり、また数論占星学では、三惑星の星座連結を表わしているのだ」と法水は、指で掌《てのひら》に描いたその記号の三隅に、ちょうど+となるような位置で、点を三つ打った。
「そうすると、いったいその棺龕《カタファルコ》と云うのは、どこにあるのだね?」検事が問い返すと、法水はちょっと凄惨な形相をして、耳を窓外へ傾《かし》げるような所作《しぐさ》をした。
「聞えないかい、あれが。風の絶え間になると、錘舌《クラッパー》が鐘に触れる音が、僕には聞えるのだがね」
「ああなるほど」そうは云ったものの、熊城は背筋に冷たいものを感じて、自分の理性の力を疑わざるを得なかった。葉摺れの噪音《ざわめき》に入り交って、微かに、軽く触れた三角錘《トライアングル》のような澄んだ音が聞えるのだけれども、その音はまさしく、七葉樹《とちのき》で囲まれていて、そこには何ものもないと思われていた、裏庭の遙か右端の方から響いて来るのだった。しかし、それは神経の病的作用でもなく、勿論妖しい瘴気《しょうき》の所業《しわざ》であり得よう道理はない。すでに法水は、墓※[#「穴かんむり/石」、165−12]《ぼこう》の所在を知っていたのである。
「先刻《さっき》窓越しに、太い椈《ぶな》の柱を二本見たので、それが棺駐門であるのを知ったのだよ。いずれ、ダンネベルグ夫人の柩《ひつぎ》がその下で停るとき、頭上の鐘が鳴らされるだろう。けれども、それ以前に僕は、他の意味であの墓※[#「穴
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