、145−7]の鍵《キイ》を押さえた指を離すと、それからは妙に声音的な音色で、※[#音名「一点ハ」の全音符を表わす楽譜(fig1317_09.png)、145−8]の音が明らかに発せられる。無論共鳴現象だ。つまり、※[#音名「い」の全音符を表わす楽譜(fig1317_10.png)、145−8]の音の中には、その倍音すなわち二倍の振動数を持つ※[#音名「一点ハ」の全音符を表わす楽譜(fig1317_09.png)、145−9]の音が含まれているからなんだが、しかしそういう共鳴現象を鐘に求めるということは、理論上全然不可能であるかもしれない。けれども、それからまた要素的な暗示が引き出せる。と云うのが、擬音なんだよ。熊城君、君は木琴《シロフォーン》を知っているだろう。つまり、乾燥した木片なり、ある種類の石を打つと、それが金属性の音響を発するということなんだ。古代支那には、編磬《ピエンチン》のような響石楽器や、方響《ファンシアン》のような扁板打楽器があり、古代インカの乾木鼓《テポナットリ》やアマゾン印度人《インディアン》の刃形響石も知られている。しかし、僕が目指しているのは、そういう単音的なものや音源を露出した形のものじゃないのだ。ところで君達は、こういう驚くべき事実を聴いたらどう思うね――。孔子《こうし》は舜《しゅん》の韻学の中に、七種の音を発する木柱のあるのを知って茫然となったと云う。また、秘露《ペルー》トルクシロの遺跡にも、トロヤ第一層都市遺跡([#ここから割り注]紀元前一五〇〇年時代すなわち落城当時[#ここで割り注終わり])の中にも、同様の記録が残されている……」と該博な引証を挙げた後に、法水はこれら古史文の科学的解釈を、一々殺人事件の現実的な視覚に符合させようと試みた。
「とにかく、魔法博士デイの隠顕|扉《ドア》があるほどだからね。この館にそれ以上、技巧呪術《アート・マジック》の習作が残されていないとは云えまい。きっと、最初の英人建築技師ディグスビイの設計を改修した所に、算哲のウイチグス呪法精神が罩《こ》もっているに違いないのだ。つまり、一本の柱、貫木《たるき》にもだよ。それから蛇腹《じゃばら》、また廊下の壁面を貫いている素焼《テラコッタ》の朱線にも、注意を払っていいと思う」
「すると、君は、この館の設計図が必要なのかね」と熊城が呆れ返って叫ぶと、
「ウン、全館
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