かれなかったのであった。
「なるほど、君の実験が成功したぜ」と検事は眼を円くしながら、鍵の下りた扉を開いたが、法水のみは正面の壁に背を凭《もた》せたままで、暗然と宙を瞶《みつ》めている。が、やがて呟《つぶや》くような微かな声で云った。
「支倉君、拱廊《そでろうか》へ行かなけりゃならんよ。彼処《あそこ》の吊具足の中で、たしか易介が殺されているんだ」
 二人は、それを聴いて思わず飛び上ってしまった。ああ、法水はいかにして、鐘鳴器《カリリヨン》の音から死体の所在を知ったのであろうか※[#感嘆符疑問符、1−8−78]

    三、易介は挾まれて殺さるべし

 ところが、法水《のりみず》はすぐ鼻先の拱廊《そでろうか》へは行かずに、円廊を迂回して、礼拝堂の円蓋《ドーム》に接している鐘楼階段の下に立った。そして、課員全部をその場所に召集して、まずそこを始めに、屋上から壁廓上の堡楼《ほろう》にまで見張りを立て、尖塔下の鐘楼を注視させた。こうしてちょうど二時三十分、鐘鳴器《カリリヨン》が鳴り終ってからわずかに五分の後には、蟻も洩らさぬ緊密な包囲形が作られたのであった。そのすべてが神速で集中的であり、もう事件がこれで終りを告げるのではないかと思われたほどに、結論めいた緊張の下に運ばれていったのだった。けれども、勿論法水の脳髄を、截ち割って見ないまでは、はたして彼が何事を企図しているのか――予測を許さぬことは云うまでもないのである。
 ところで読者諸君は、法水の言動が意表を超絶している点に気づかれたであろう。それがはたして的中しているや否やは別としても、まさに人間の限界を越さんばかりの飛躍だった。鐘鳴器《カリリヨン》の音を聴いて、易介の死体を拱廊《そでろうか》の中に想像したかと思うと、続いて行動に現われたものは、鐘楼を目している。しかし、その晦迷錯綜としたものを、過去の言動に照し合わせてみると、そこに一縷《いちる》脈絡するものが発見されるのである。と云うのは、最初検事の箇条質問書に答えた内容であって、その後執事の田郷真斎に残酷な生理拷問を課してまでも、なおかつ後刻に至って彼の口から吐かしめんとした、あの大きな逆説《パラドックス》の事であった。勿論その共変法じみた因果関係は、他の二人にも即座に響いていた。そして、その驚くべき内容が、たぶん真斎の陳述を俟《ま》たずとも、この機会に闡明《せん
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