ものは自転車の原始時代に見るような素晴らしく大きなもので、それを、起動機と制動機とで操作するようになっていた。
「ところで、遺産の配分ですが」と熊城が、真斎の挨拶にも会釈を返さず、性急に口切り出すと、真斎は不遜《ふそん》な態度で嘯《うそぶ》いた。
「ホウ、四人の入籍を御存じですかな。いかにも事実じゃが、それは個人個人にお訊ねした方がよろしかろう。儂《わし》には、とんとそういう点は……」
「しかし、既《とっ》くに開封されているじゃありませんか。遺言書の内容だけは、話してしまった方がいいでしょう」熊城はさすがに老練な口穽《かま》を掛けたけれども、真斎はいっこうに動ずる気色《けしき》もなく、
「なに、遺言状……ホホウ、これは初耳じゃ」と軽く受け流して、早くも冒頭から、熊城との間に殺気立った黙闘が開始された。法水は最初真斎を一瞥《いちべつ》すると同時に、何やら黙想に耽《ふけ》るかの様子だったが、やがて収斂味《しゅうれんみ》の[#「収斂味《しゅうれんみ》の」は底本では「収歛味《しゅうれんみ》の」]かった瞳を投げて、
「ハハア、貴方は下半身不随《パラプレジア》ですね。なるほど、黒死館のすべてが内科的じゃない。ところで、貴方が算哲博士の死を発見されたそうですが、たぶんその下手人が、誰であるかも御存じのはずですがね」
 これには、真斎のみならず、検事も熊城もいっせいに唖然となってしまった。真斎は蟇《がま》みたいに両|肱《ひじ》を立てて半身を乗り出し、哮《た》けるような声を出した。
「莫迦《ばか》な、自殺と決定されたものを……。貴方《あんた》は検屍調書を御覧になられたかな」
「だからこそです」と法水は追求した。「貴方は、その殺害方法までもたぶん御承知のはずだ。だいたい、太陽系の内惑星軌道半径が、どうしてあの老医学者を殺したのでしょう?」

    二、鐘鳴器《カリリヨン》の讃詠歌《アンセム》で……

「内惑星軌道半径※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」このあまりに突飛《とっぴ》な一言に眩惑されて、真斎は咄嵯《とっさ》に答える術《すべ》を失ってしまった。法水は厳粛な調子で続けた。
「そうです。無論史家である貴方は、中世ウェールスを風靡《ふうび》したバルダス信経を御存じでしょう。あのドルイデ([#ここから割り注]九世紀レゲンスブルグの僧正魔法師[#ここで割り注終わり])の流れを汲《く》ん
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