うのは? 幾ら僕でも、君の心中の秘密だけは判らんからね」
朔郎は、囚われた犯罪者とは到底思われぬような、澄み切った瞳を向け、冷静な言葉で云った。
「僕は父の復讐をしたのです。父は胎龍と年雅塾の同門だったのですが、官展の出品で当選を争った際に、胎龍は卑怯な暗躍をして、父を落選させ自分が当選しました。父はそれを気に病んでから発狂し、一生を癲狂院で終ってしまいました。ですから子たる私は、どうしても眼で眼に酬いてやらねばならなかったのです。それから、喬村には理由はありません。ただ、動機と目される様な行為を続けていたので、それを利用したに過ぎなかったのでした」
と云い終るが早いか、朔郎は突然身を飜えして、背後にある配電函《キャビネット》の側に駈け寄った。硝子がパンと砕けると同時に法水は思わず眼を瞑《つぶ》った。閃光が瞼を貫いて、裂く様な叫声を聴いたが、一瞬後の室内は、焦げた毛の臭が漂うのみで、さながら水底の様な静寂《しずけさ》だった。顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》に高圧電流をうけて、此の若い復讐者は再び蘇生する事がなかったのである。
底本:「二十世紀鉄仮面」桃源社
1969(昭和44)年5月10日発行
入力:酔尻焼猿人
校正:土屋隆
2004年12月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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