では昔から、狸と貉とは別物にしている。狸を殺してはいけないちうことは知っているけれど、貉を殺してはならぬちうことは知り申さぬ。と、いうのである。
そこで、裁判では狸と貉の区別について専門家の意見を求めたところ、やはり駐在巡査の主張した通り、狸と貉は同一の動物であって、ところにより呼び名が異なるだけであるという証言を得たのである。よって遂に、百姓は国法により罰せられたという新聞の記事を見た。
それ以来、私は狸と貉を同一のものと考えるようになったのだが、私の老父が私の幼い頃、私らの子供に化けものばなしをするとき、貉の化け方は、甚だ大|袈裟《げさ》で雲つくばかりの大入道となり、人間の胆を潰すのを見て喜ぶ。しかし、狸の化け方は一体に小柄で、一つ目小僧のような少年となり、時に人間に正体を見破られて逃げ出すという茶目気分がある。と、聞かせていたので、私は幼いときから両者を別ものと思ってきたわけである。
※[#「豸+權のつくり」、第4水準2−89−10]《あなぐま》を指して、狢と呼ぶ地方もある。曲亭馬琴の里見八犬伝では、犬山道節が足尾庚申山の、猫又を退治する条で、※[#「豸+權のつくり」、第4水準2−89−10]をまみ[#「まみ」に傍点]と称しているが、東京麻布の狸穴は、これをまみあな[#「まみあな」に傍点]町と唱えている。してみると、われわれの先祖は、そそっかし屋揃いで、狸と※[#「豸+權のつくり」、第4水準2−89−10]を兄弟か、従兄くらいにしか考えていなかったらしい。
動物学の方からいうと、狸は犬科に属しているけれど、※[#「豸+權のつくり」、第4水準2−89−10]は貉や獺《かわうそ》と同じに、鼬鼠《いたち》科に属している。※[#「豸+權のつくり」、第4水準2−89−10]は、本州、四国、九州など至るところに棲んでいて、体の長さは尾と共に六百三十ミリ内外。毛色は夏冬によって、彩を異にし、冬毛は背中に白味が多く、腹の方は黒褐色を呈し、過眼帯は黒い。爪は長く黄白色をなし、前肢の爪は殊に長大だ。
前段に申したように地方によっては狸と混用して、狢というが体の毛の荒いのと、前肢の爪が長いのによって、はっきりと区別することができる。低い丘の横腹などに自分で穴を掘って棲んでいて、四月頃に子を産むのである。肉は脂肪を含んでやわらかく、その風味、豚に似ていると思う。
二
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