い出し、手網のなかへ追い込むのだ。こうすると、二、三時間に五十尾くらい捕るのは苦労はいらぬ。
一回の釣遊に、五十尾の餌があれば充分だ。しかも、餌代不要だ。
竿は七、八尺。延べ竹で、穂先を鮎のゴロ引き竿の穂先ほど太くし、竿尻は鋭くしておく。それは、水の底の小石の間へ刺したてるためだ。道糸は、人造テグスの一分半くらいの太さのもの一|把《たば》、二十間を全部用いる。鉤素《はりす》はテグスの一分二厘乃至一分半が適当である。鈎はフッコの一寸。錘《おもり》は一匁から五匁くらいまで用意し、これを時刻と流速を考えて、適当につけるのである。
鈎へ蝦をさすのに、秘密がある。これは、誰にも教えてはいけませんよ。まず、蝦を右の手の二本指でつかまえて、尻の方から腹の三節目へ、鈎先をさす。その場合、腹の中央に頭から尻へ一直線に朱色の線が張っているが、それは神経であるから、必ず鈎先を神経に触れてはいけない。そして、鈎先を背中へ抜く。
こんなふうに、鈎先をさすと、蝦は二、三十分くらいの長い間、活きているまま水中に泳いでいるから、活き餌を好む鱸の眼につきやすい。二、三十分して、魚の当たりのないときは、餌を調べてつけ替える。
さて、狙い場所だ。川へ遡り込んできた鱸は、海にいるときと同じように甚だ貪食だ。真冬の間は、深い淵や瀞にひそんでいるけれど、それでも餌を追うことを忘れない。だが、午後四時頃からが彼等の活動の時間である。真夏の陽が、西の地平線へ一丈ばかりのところへ近づいてくると、鱸はそろそろ浅場へ泳ぎだしてきて、餌である蝦や小魚を追いまわすのである。もし、浅場の水面を蝦や小魚が跳ね上がって、小刻みに逃げる動作を見たならば、その辺には必ず鱸が餌を漁《あさ》っているものと考えてよろしい。
しかし、鱸が最も好んで泳ぎまわる場所は、瀬の落ち込みから下流だ。つまり、そこには小魚や蝦が集まっているからだ。落ち込みから下の流速が速く、しかもまだ陽が高かったならば三匁くらいの錘を餌から四|尋《ひろ》くらいの上方の道糸につけて置くのだ。そして、竿を落ち込みの上手の瀬の真ん中へさし込むのである。竿は、瀬の中へ真っ直ぐに立った。それから長さ二十間の道糸をそろそろと流してやる。餌が落ち込みの下手にまで達するような位置に竿をさすのがよろしいのである。
その付近に鱸が泳いでいれば直ぐ食いつく。待ったなしに食い込ん
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