ありません、と私に武者振りつくように言うのであった。
 親戚の人々の噂に、京都でみゑ子を欲しがっているという話を耳にしていましたが、とうとう故郷の方から命令がきましたか。ですが、わたしはみゑ子がなくてはこの世に生きている気がしません。わたしは死んでもみゑ子とは離れません。日本にいると、これから先もそんな要求が絶えずくるかも知れませんから、世間から遠く離れた南米へでも移住しようじゃありませんか。その方が、煩《うるさ》くなくていいでしょう。ねえ、お父さん。
 こんな心持ちを、家内は哀心から私に訴えるのであった。子供を幼いときから育てれば、こうも愛が凝集するものかと、私は感動した。
 日本を離れるのもよかろうが、それはとにかくとして最後にのっぴきならぬときがきたら、みゑ子の身代わりとして久子を京都へやることにしようか。と言って、私は三番目の女児の名をあげ、家内の心を試した。すると家内は言下に、それで済むことでしたら、是非《ぜひ》それで京都を納得させるようにしてください、と哀願するのだ。
 だが、実際問題として、わが子をたとえ自分の姉のところであるにしても、手離せるわけのものではない。また先方
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