ができない。しかも、寒中の鯛は四季のうち至味の節といわれている。寒中は、海も川も釣りものの種類が少ないときだ。鯛釣りに志すほどの人は、一度この釣りを試してみるのも面白いと思う。
 全国至るところ春、夏、秋にかけてその鯛釣り場は随分多いけれど、寒鯛釣り場は数が少ない。関東では東京湾口の鴨居、房総半島の船形、外房州勝浦沖、相模国真鶴港外の三ツ石付近、伊豆半島下田町沖合神子元島、横根島、石取島の地先、常陸国久慈と大津沖など。関西では土佐沖、鳴門海峡、紀淡海峡など七、八ヵ所を数えるに過ぎない。
 そして、この釣りは出漁すれば必ず釣れるというわけではなく、また季節の関係で海は荒れがちであるから、専門漁師でもこれに熱中する者は甚だ少ないのである。

 こんなわけであるから、もし出漁を希望するとすれば、志した土地の漁師と密接な連絡を取って置き、よく条件の備わったときに出かけるのがよろしかろう。



底本:「垢石釣り随筆」つり人ノベルズ、つり人社
   1992(平成4)年9月10日第1刷発行
底本の親本:「釣随筆」市民文庫、河出書房
   1951(昭和26)年8月発行
初出:「釣趣戯書」三省堂
   1942(昭和17)年発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2007年7月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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