たのが、三月中旬である。それから五月中旬までに、蒔いたり植えたりしたものに、時なし大根、美濃わせ大根、甘藍、里芋、夏葱、春蒔白菜、春菊、胡瓜、唐茄子、西瓜、亀戸大根、山東菜、十二種類、なんと賑やかではないか。僅か十八坪か二十坪の庭が、野菜の百貨店となった。
屋敷続きの畑には第一に馬鈴薯を植えた。それから茄子、トマト、蔓なし隠元、岩槻根深、小松菜、唐黍など。
そしてこの、園芸の師匠は本家の邦雄さんと呼ぶ農学校出の青年である。恐らく、この夏から秋にかけては、素晴らしい果菜が、山のように食膳を賑やかすことと思う。
楽しいものだ。おかげさまで、朝は四時に離床して、畑の土に覗き入り、蒔いた種のご機嫌を伺う。初夏は、朝が早い。私が、飽かず胡瓜の貝割葉に興を催していると、四時半には野州の山の端から、錦糸にまがう陽《ひ》の光が散乱する。光景を受けた喜びに、物の葉が微風に震う。
夜七時が、夕めし。食べ終わると枯木が倒るるが如く、畳の上で大いびき。
合計百二、三十坪の野菜畑に過ぎないが、下肥汲みまでやるのであるから、なれぬからだには相当の労働だ。快く疲労すること、まことに健康そのものだ。
さて
前へ
次へ
全24ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング