ていても、その川を見限ってはならぬ。必ず流れの激しいところを試釣すべきだ。
汀に近い腐った石にも、新しい垢がつくことがある。川へ立ち込んで釣る場合が多い。だから、汀に近い石は釣人の草鞋のために踏みにじられる。踏みにじられると、腐った垢は洗い去られるからそこへ新しい垢がつくのは当然である。
目ざとい鮎は、決してこれを見遁しはしない。機会があれば、その新しい垢をなめようと心掛けている。だが、日中は釣人の影を怖れるために、汀へは近づいて来ない。夕方が来て、釣人が岡へ上り、帰り仕度をはじめて川が静かになると鮎はあたりの様子を窺いながら、汀の石に近づいて、背鰭が水面に出でんばかりのところで水垢をむさぼり食う。これを『夕暮の食出し』というのである。夕暮の食い出しを釣ると、まことに愉快である。
川に並んで、釣っていた多くの人が帰途についた後、自分一人が磧へ居残って、一時間ばかりも一服喫った後、短い竿を操縦して静かに岸近いところを釣ると、日中は深いところに隠れていた大きな鮎が、どこからともなく集って来て、面白いように鈎に掛る。そろそろと後すざりに上流へ囮鮎を引き上げて行くと、直ぐグッと掛る。忙し
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