ある。そこへ囮鮎を放てば必ず釣れる。
 故に、白川となっても諦めては早計である。垢の残っていそうなところを仔細に観察し、川の中へ足を踏み込んで、爪先で石のまわりを撫でまわして見て、そこに少しでも残り垢のあるのを発見したならば、必ずその附近に鮎がいるものと思っていい。釣人がこんな場所を発見すれば、鮎を一人占めに釣ることが出来る。
 川が濁っても鮎は釣れる。川へ膝まで入って、足の甲が見える位の濁りならば、友釣に掛るものである。濁った時の方が却って釣れる場合がある。鮎は人の姿を恐れる。だから汀に近いところに、新しいおいしそうな垢があっても日中は近よらないものである。ところが、川が薄濁りになって来て、身を隠すに適当であるならば、深いところにいた鮎は争って汀近くへ集って来て盛に遙か遠くから指をくわえて眺めていた垢石になめつくのである。川が濁ったならば、ヘチを釣れとはこのことをいうのである。そこで、濁りが消え水が去った後、岡へ上った石を見ると鮎の歯跡が縦横に印せられてある。これを『岡なめ』という。
『岡なめ』は居付鮎が残したもののみを呼ぶのではない。溯上期の鮎も『岡なめ』を残す。それは、四月末から
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