水の遍路
佐藤垢石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)迸《ほとばし》り

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)南端|布良《めら》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)はや[#「はや」に傍点]
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 それからというもの、私は暇さえあれば諸国を釣り歩いた。渓流、平野の川、海、湖水。どこであろうと、嫌うところなく釣りを楽しんだ。
 故郷上州の水は、殊に親しみ深い。我が家の近くを、奥深い上越国境大利根岳から流れ出て、岩を削って迸《ほとばし》り、関東平野を帯のように百里あまりも悠々と旅してゆく利根川のことはここに説明するまでもない。片品川、赤谷川、湯桧曽《ゆびそ》川、谷川、宝川、楢俣川、薄根川、大尻川、根利沢、砂沢、南雲沢、吾妻川など、利根川へ注ぐ数多い支流へは、幾度も幾度も分け入った。
 浅間山麓六里ヶ原を[#「六里ヶ原を」は底本では「大里ヶ原を」]流れる、さまざまの渓流も忘れ得られない。碓氷《うすい》峠の山水を飾る碓氷《うすい》川、霧積川、坂本川も長い年月、我が釣意を誘うところであった。
 妙義山の南麓から出る西牧川と
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