楽しみのあるものである。
たとえば、手近の例が上越国境即ち白根火山の北方、信濃の渋峠を地点として東方へ走り岩代、上野、下野の三国境付近の尾瀬沼の東でつきる山脈の裏表は完全に、日本海へ注ぐ川と太平洋へ注ぐ川との分水嶺をなしている。この山脈の中央に他を圧して聳立する大刀根岳の雪渓の滴りを源とする利根川と、やはりこの山脈中の名山、谷川岳の北裏を源とする越後の魚野川の水温を比較すると、川が暖かい陽当たりに向いて流れるにも拘《かか》わらず、利根川の方が水温が低い。
また、越後の阿賀の川の支流只見川は会津の奥、即ちこの山脈の東端に位する燧ヶ岳の西南の谷から北方へ向いて流れ出すが、尾瀬沼の森林中に源を持って南方を指して流れいく利根の支流片品川の方が水温が低いのである。
遠く加賀の白山の裏川から源を発する射水川、越中立山の西北から出る神通川も共に、日本海へ注ぐのではあるが、上の保、吉田、板取、揖斐の各支流を集め、木曾の奥から出てくる木曾川に合する長良川の方が、太平洋に向いているにも拘わらず水温が低い。
まれに、平州に源を発する駿州の富士川、野州塩原の裏山から出る常陸の那珂川のように太平洋へ注い
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