三木の野放図もない心臓にはついに敵しかねてしまったのであった。
ところが、選挙の前の晩になって、やはり憲政会の候補者の鈴木万二郎(ハーゲマン)が神田の錦輝館で演説会を開くことになったが、大隈伯はこれへも推薦演説に出るというのである。そこで三木武吉は、例によって伯に対し、そこへ割り込みの申し入れをした。
大隈はまた、
『よしよし』
と、いうのである。だが、鈴木はこれをききあわてふためき、三木へ直接に、『三木君、それは堪忍してくれ。僕の方で費用は負担するから、何処か適当なところへ演説会場をこしらえて、そこでやってくれないか。歌舞伎座の二の舞をやられたのでは、目も当てられない』
『それもよかろう』
こんな次第で、費用は鈴木が持ち肝腎の大隈にも出席して貰って、ほかで盛んな演説会を開いた。だが、不幸にも三木はこのとき落選したのだ。
まことに、不思議な話だ。頼母木桂吉が東京市長になって去ると、三木武吉が報知新聞社長になって入ってきた。これも、なにかの因縁であろう。[#地付き](一五・三・三)
底本:「完本 たぬき汁」つり人ノベルズ、つり人社
1993(平成5)年2月10日第1刷発行
底本の親本:「随筆たぬき汁」白鴎社
1953(昭和28)年10月発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2007年4月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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