うにするのである。これを乗っ込みのしもり釣りとも貝殻釣りともいう。貝殻釣りというのは、玉浮木がフワフワと水の中層を流れて、あたかも貝殻が底の方へ沈んで行くように見えるからで、あまり早く浮木が沈んでも面白くなし、あまり遅くても鮒が餌を発見するのが遅い。錘が水底へ着いたならば竿先で軽く浮木をあおると、錘は水底を離れ浮木は水の上層に浮き次の動作に移るのである。かくして下流へ下流へと探っていく間に、乗っ込みきたった鮒の群れにめぐり会うと、そこで大釣りがはじまる。
 浅い細流では鮒は、流れの中央を遡ってくるが、少し広い流れであると、岸に近いカケ上がりを泳いでくる。であるから、なるべく足の響きが流れに伝わらぬように歩かないと鮒は驚いて枯れ藻の中へ逃げ込んでしまうものである。乗っ込みの季節になると、一雨ごとに鮒の動作は活発になるから、雨後の小さな出水の場合は、ほんとうに見のがしはできないのである。雨が降った翌日は懸命に釣り場へ駆けつけるべきだ。温和の気候が続けば水郷地方の乗っ込みは四月一杯続くであろう。佐原向こうにも神崎の向こう田圃にも沢山の細流がある。また千葉県側から大利根へそそぐ細流へは素晴らし
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