香魚の讃
佐藤垢石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)榻《とう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)奇勝|長瀞《ながとろ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)川は賑わう[#「賑わう」は底本では「振わう」]。
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一
緑樹のかげに榻《とう》(こしかけ)を寄せて、麥酒の満をひく時、卓上に香魚の塩焙《えんはい》があったなら涼風おのずから涎《よだれ》の舌に湧くを覚えるであろう。清泊の肉、舌に清爽を呼び、特有の高き匂いは味覚に陶酔を添えるものである。
今年は、鮎が釣れた。十数年振りで鮎の大群が全国の何れの川へも遡ってきたのである。青銀色の滑らかな肌を、鈎先から握った時、掌中で躍動する感触は、釣りした人でなければ知り得ない境地である。
六月一日の鮎漁解禁に、白泡を藍風に揚げる激湍《げきたん》の岩頭に立って竿を振る人々が、昨年よりも一層数を増したのも当然のことと思う。
だが、早瀬に囮《おとり》鮎を駆使して、ほんとうに豪快な釣趣に接し、八、九寸四、五十匁の川鮎を魚籠《びく》に収めようとするのは、六月下旬から
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