ら、長吟する理由がないということになった。
 夏の夕、地中や石垣の穴で鳴くのはケラの雄で雌を呼ぶ声であるという。ところが、これを蚯蚓の鳴き声と誤られて、酒のなかに入れ人間に飲まれてしまうのは、甚だもって蚯蚓は迷惑を感じていると思う。
 南米にはびっくりするほど大きな蚯蚓が棲んでいる。ブラジルに産するグロソとスコレックス、ケープに棲むミクロケーツスと称する蚯蚓は、共に長さ三尺五寸以上はある。日本にも素晴らしく大きいのがいた。倭漢三才図絵には、丹波国遠坂村に大風雨の後山崩れあり大蚯蚓を出す。一つは一丈五尺、一は九尺五寸と書いてある。支那にも大きなのがいて西陽雑俎に唐の大和三年ろ州の某官庭前に忽然として大蚯蚓出ず、その長さ二、三丈とあるが、こんなのに出られたらミミズ酒どころではない。あべこべに、人間がのまれてしまうであろう。
 またこれを餌にして、大海へ釣りに行けば巨鯨が釣れるかも知れぬ。



底本:「『たぬき汁』以後」つり人ノベルズ、つり人社
   1993(平成5)年8月20日第1刷発行
入力:門田裕志
校正:松永正敏
2006年12月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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