指上候。私共にも下され兼ね候位之御風味にて、実に恐入候御事に奉存候。其余すべて御膳辺右に准じ候。御模様哉に相伺ひ申候。尚、恐れ乍ら御賢慮あらせられ候やう奉申上候事』
 と、記したのがあった。
 これに対して、豊後守の返事は、
『昨日は御膳酒御差越し、辱なく早速拝味致し候ところ、以ての外なる味、七分水、三分酒と申位の事に候。総じての儀、右に准じ候旨承知いたし候。この節取調中に候。その中否や申し入れべく候。且つ、器返却に付、有り合ひ麁酒差入申候。早々不備』
 というのであった。けれど間もなく豊後守は俄に江戸へ召されたので、御用商人検挙のことは中止となった。
         ※
 さて、近衛内閣は四月十九日の閣議において賀屋蔵相の立案した貯金奨励局新設のことを承認し、これを現政府の政策の一つに加えることに決定した。
 賀屋蔵相の考えるところによると、国民が協力して貯蓄精神を発揮すれば八十億円位ためるのはさほど困難ではない、というのである。そこで、我々国民もその覚悟をせねばなるまい。
 申すも畏き極みながら、以上に述べたように、ご時世とあってみれば、幕末の頃においては一天万乗の大君にましまし
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