明するのが何よりだ。これが紙を濕らして取る方法であるが、濕されない種類のものは、實物の上へ紙をよく押しつけて、支那製の雪花墨又は日本製の釣鐘墨といふもので靜かにそして細かに其上を撫で※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]はせば乾いたまゝで拓本が出來るが、西洋人は其代りに石墨などを用ゐるやうである。
拓本の趣味を語れといふ學報記者の註文に對して、私はむしろ拓本の實用と私自身の希望を語つて仕舞つたが、拓本の紙の質が支那、朝鮮、日本、同じ支那でも地方々々で違ふことや、タンポの打ち方や墨の濃淡に從つて表はるゝいろ/\の趣味や、平面だけしか取れぬ筈の拓本に全形を想はせる工夫のあることや、模本贋本の多いこと、その見分け方、拓した時代の見分け方、或は又自分で拓本を取つて居る時に低く續くタンポの音に伴つて起つて來るところの何ともいひ難い微妙な快感や、凡そそれこそほんとに拓本の趣味のことは、いづれ又暇な時に御話をする機會があるでせう。
底本:「日本の名随筆27 墨」作品社
1985(昭和60)年1月25日第1刷発行
1997(平成9)年5月20日第17刷発行
底本の親本:「會津八一全集 第一一巻」中央公論社
1982(昭和57)年10月発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2006年11月18日作成
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