の不滅則は、何人も否定し得ない以上は、吾々の肉体は決して滅亡すべきものではない、またエネルギーが不滅なものであるからには、吾々の活動的精神も滅びない事は解っているだろう」
「して見れば先生よ、吾々は一時地球とともにその形態を変化する迄で、決してこれきり亡びるのではない事を知りました、この上は吾々は大なる慰安の下に、彼ら同胞の跡を追うことが出来るのです、ああ先生の教訓は、吾々をして、大善智識の化導と同様なる、愉快を与えられた事を謝します」
 彼ら二、三の同志は、心からなる感謝を学者に捧げたが、学者はすでに慰安を以て瞑目し、その体は氷よりもさらに冷たくなっている、されど彼の顔は、愉快なる微笑さえ浮んだのが見らるる。
 残れる者どもは、これを見て敢て驚きもせず、また悲しとも思わなかった、蓋《けだ》し死は分秒を争うに過ぎぬからである。
 かかる悲惨極まる有様の下に、地球の生物は刻々に亡び、太陽は一分毎に光りを失い、月はますます地球に接近する、そしてその月が、恐ろしい音響を以て地球と衝突し、遂に二体合一せる刹那《せつな》の物凄い有様は、何人も見たものがなかった、故にそれは未来数億万年後に、新しき世界に人として生れ来る者も、想像に描く能わざるべく、地球の末期《まつご》は、かくて永久に神秘の内に閉さるるであろう。
[#地付き](「冒険世界」明治四〇年五月号)



底本:「懐かしい未来――甦る明治・大正・昭和の未来小説」中央公論新社
   2001(平成13)年6月10日第1刷発行
初出:「冒険世界」博文館
   1907(明治40)年5月
入力:川山隆
校正:伊藤時也
2006年10月18日作成
青空文庫作成ファイル:
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