面は何の爲に用《もち》ゐらるるかと言《い》へば、故らに面貌《めんばう》を奇にする爲か他人《たにん》に面貌を示さざる爲か然《しか》らざれば寒氣《かんき》を防ぐ爲なるべし。思ふに第三種の用こそ此場合《このばあひ》に於ける眞《まこと》の用ならめ。此考《このかんが》へにして誤無からんか、是等《これら》の覆面は氣候の[#「氣候の」は底本では「氣侯の」]寒冷を示《しめ》すものにして前項記載の頭巾《づきん》と能く釣り合を保てるものと云ふべし。
兩眼《りやうがん》の部には恐らく小孔有りて此所《ここ》より外界を窺《うかが》ふを得る樣に成し有りしならん。
覆面は如何にして面部《めんぶ》に着けられしや。精《くわ》しく言ふ能《あた》はざれど、第五の土偶にては左右兩側《さいうりやうがは》に紐を付けて頭に結《むす》び付けたるが如く、他の四個の土偶にては左右兩側に輪《わ》を設けて耳に掛《か》けたるが如し。土偶 頭髮《どぐうたうはつ》の形状より考ふれば是等の覆面は女子《ぢよし》の用ゐたる物と思はるるなり。
       ●遮光器
石器時代土偶中には其面貌《そのめんばう》實に奇異なるものあり。元來《ぐわんらい》是等土偶は身体全部《しんたいぜんぶ》悉皆比例正しく出來居《できを》るものには非《あら》[#ルビの「あら」は底本では「あらざ」]ざれど數個の土偶に於ては兩眼に當る部分《ぶぶん》殊に不恰好《ぶかつかう》に大きく作られたり。左に數例《すうれい》を掲ぐ。(※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]圖右の下及び第一回※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]圖右の方下の隅を見よ)
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一、陸奧國西津輕郡龜ヶ岡發見 佐藤蔀氏藏
二、同前           理科大學人類學教室藏
三、陸奧國二戸郡|小烏谷《コズヤ》村發見 同前
四、同前           同前
五、羽後國南秋田郡御所野發見 同地某氏藏
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是等土偶は眼の部何れも横長《よこなが》き橢圓形の輪廓を有し、其中央《そのちうわう》に一條の横線《よこせん》存在《そんざい》す。輪廓全体を眼とすれば横線を瞳《しとみ》とせざるべからず、横線のみを眼《め》とすれば輪廓は何《なに》なるや考へ難《がた》し。何れとするも能く解したりとは言ふべからず。然らば此奇異《
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