口で、皮膚を鳴らす毛の脱けた病気の犬の鳴き声であつたのだ。
私は落胆した。
――凡太郎に合図をしてゐるやうですね、嫌らしい烏。
妻は天井を仰いだ。いまにも屋根を剥いて持つてゆきさうに荒々しく屋根を渡り歩き烏どもは鳴きたてた。すると妻のいつたやうにいかにも凡太郎はその尾について
――かあ、かあ、かあ、かあ
とやり出すのである。そして不吉な烏と、病気の犬との真似をものゝ十日もつゞけたのであつた。
『唖ではないだらうか』こんな不安を抱き始た。然しそれからまもなく凡太郎は、またもや奇妙な叫びをあげはじめた。
――まふ、まふ、まふ、まふ。
最初はその意味がどうしても私達には判断が出来なかつた。
――貴方判りましたよ。凡太郎は牛の真似をしてゐるらしんです。
妻は、或る日凡太郎を抱きあげながら窓際に立つて戸外をながめてゐたが、突然かういつた。
私の家の近くに牧場があつた。そしてその牧柵が、私達の家の窓の下までも伸びてつゞいてゐた。
(三)
牛達はこれまでは、寒い気候なので、牧舎の中で飼はれてゐたが近頃になつて、晴た天気がつゞくので、牛達は雪の上に散歩にだされた。そし
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