に頬ばる、畳の間から藁屑を摘み出して頬張つたり、乾からびた飯粒、石炭の小さい塊やら、新聞紙の切つ端や、蝋燭の屑、など片つ端から口にいれた、そして嚥み下されるものは嚥み、嚥みこめないものは吐き出てゐたが、看視人である母親は、鈍感であるので多くの場合知らなかつた。
たまに母親はこれを発見するが落付いたものであつた。
――凡太郎、なんだい、今口へ入たものは、まあ驚いた、これは炭滓ぢやないの、なんといふ判らない児だらうね、お前は、口に入れることの出来るものは、なんでも喰べられるとでも思つてるのかい。
母親は、まだ歩き出すことも出来ないやうな凡太郎に向つて、威猛高になつてかう叫ぶのであつた。
その頃から凡太郎は、しきりに赤い唇を動かして
――あ、あ、あ、あ、あ、
と意味の通じない、小さな叫びをあげるやうになりだした。
――凡太郎は、そろそろ、ものをいひ出すのでは、ないでせうか。
かういつて母親は、すつかり嬉しがつてゐるのであつた。
(二)
私も、凡太郎の『最初の言葉』といふことに、非常に重大な興味と注意とを感じた。
なにかしら凡太郎が、第一に叫びだす言葉によつて、
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