ければ駄目だ』
 男はかう考へたので女の肩に自分の肩をならべて、それで河風をさいぎつて、堤の上の乾いた土の道路の上に女を歩かせようと、すくなからずいら/\と努力しながら、肩を櫓皿のやうにぐり/″\と女の肩に動かした。
『娘さんよ、河のあまり近くに行つては危険ですよ、河原の石がころ/\してゐますからね、こつちへいらつしやいな、柔らかい地面を選んで坐りませうよ』
 と男が熱心に呼びかけると女はちよつとふり返つたなりで、ぐん/″\と男の先にたつて足早にあるくのが男を激しくいら/\させた、男は追ひすがるやうに女の丸い肩に両手をかけて、地べたにむかつて静かに押へつけたので女は白い二本の足をきちんと揃へて草の上に坐つてしまつた。

    (五)

 足を女の足のしろさとならべてつま先のところをじつと男がみつめてゐると幾分地面が傾斜になつてゐることに気がついた、そして背中にすく/\と暗の中に新鮮な青い樹木のやうなかたちが大きな掌をひろげて男をどんと突いたので、危くがつくりと前のめりに娘さんの膝の上に頭を落してしまふところであつた。
 それと殆ど同時に後のくらがりに『ぽきり』とすばらしい大きな響きが
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