だからトマトが お腹《なか》に生《は》へだしたのです
えつ? 僕《ぼく》たちの体《からだ》の中に?
トマトが生へだしたんですかあ?
ウワア! 困《こま》つた


困つたなあ
アーン アーンあたし 困つたわ
泣いたつて治《なほ》りはしないよ
いや心配《しんぱい》なく かならず治してあげませう
ぢや また見|舞《ま》ひにまいります[#「まいります」は底本では「まいりま」]
[#改ページ]

トマト騒動《さうどう》


あゝ つまらないなあ
ピチちやん さう手をふりまはしちやだめよ
いやだ 退屈《たいくつ》だよ


わあ面《おも》白い 握《にぎ》つたものがみんな燃《も》えるよ
だめだつたら ピチちやんおよしよ およしつたらさ
うるさいなあ


みんな静《しづか》にゐなけりやあ治《なほ》らないよ
そう手をふりまはしちやだめだつたらさ
いくら言《い》つてもわからないのこのひと
あ痛《いた》! あれつ 引《ひ》つかいたな


あつ! ニャン君 大|変《へん》だ
あら わたしのリボンが どうしやう
あッ!


困《こま》つちやつたなあ
アーン アーン
だれか早く消《け》してちようだい
さうだ早くあのボタンを押《お》さう


やあ これは涼《すず》しい
ごめんね ニャンちやん
アーン アーン だつて わたしこれきしリボンもつてないんですもの


ひどいわ ひどいわ リボンがない……
アーン アーン
ごめんね そのうちにどこからか拾《ひろ》つてきてあげるわよ


もし もし
あつ だれかきた
……
……


まあー みなさん どうしました 室《へや》の中が水だらけ
やあ病院《びやうゐん》の看護婦《かんごふ》さんだ
看護婦さん ピチちやんがわたしのリボン燃《も》やしてしまつたの


ボタンを押《お》して 水をとめて下さい
ホイキタ 合点《がつてん》だ


とき/″\喧嘩《けんくわ》するんですよ
だつて リボンをなくしちやつたんだもの
さあ 泣くんぢやないですよ かわりをあげませう


さあ わたしのリボンをあげませう
まあ うれしい!
やあ! 素的《すてき》だなア!


ではみなさん 喧嘩をしないで おやすみなさいよ
看護婦《かんごふ》さん リボンありがたう
看護婦さんおやすみ!


僕《ぼく》が[#「が」は底本では「か」] 君のリボン 焼《や》いたからもらつたんだよ
そんなことないわよ いぢわる[#「いぢわる」は底本では「いちわる」]
親切《しんせつ》な看護婦《かんごふ》さんだな


困《こま》つたなあ トマトがお腹《なか》に生《は》へる病《びやう》気なんて
わたし 地|球《きう》へかへりたくなつてきたわ
駄目《だめ》だい 病気が治《なほ》らなければかへれないや


では あの地球からのお客《きやく》さんたちは 野外《やぐわい》病|院《ゐん》の方へ移《うつ》しませう
なるべく患者《くわんじや》を驚《おど》ろかさないやうにね
準備《じゆんび》はできました
[#改ページ]

火星《くわせい》の看護婦《かんごふ》さん


あなた方《がた》はこれから野外病院の方へ移《うつ》ります
どうです 体《からだ》の具合《ぐあ》[#ルビの「ぐあ」は底本では「ぐあひ」]ひは
どうも熱《ねつ》が下りません
外《そと》の病院へ行くんですか


では トマトの葉《は》つぱで三人とも目かくしをしてくれ
はい かしこまりました
どうするんですか
心配《しんぱい》だわ


そんなに心配《しんぱい》しなくともいいですよ
でも、わたし気|味《み》がわるいわ
あゝ 何んにも見えない
自動車を三|台《だい》用|意《い》
はい かしこまりました


用意ができました
では出発《しゆつぱつ》!


どの辺《へん》を走つてゐるのか さつぱりわからない
ここは運河《うんが》づたひに走つてゐるのです


野外病院《やぐわいびやうゐん》といふのはどんなところです
それはハイカラな病院ですよ


みんな離《はな》ればなれになつてしまつたわ
またすぐみんなと一|緒《しよ》になりますからね


さあ みなさん病院《びやうゐん》に着《つ》きました
この辺《へん》一|帯《たい》が病院です
だつて目かくしされてるから見えませんよ
クンクン 何にか良《よ》い匂《にほ》ひがする
トマトのやうな匂ひがする


さあ この入口から階段《かいだん》を下りませう
ころばないやうに


なんだか地|面《めん》の下を歩いてゐるやうだ
さうなんです
わたし いやだわ
心《こころ》細いね


長いらうかだなあ
いやになつてしまふわ
もうすぐ地|上《じやう》に出られます


さあみなさんもう着《つ》きました
葉《は》つぱの目かくし取つていいですか
まだ まだ


あなた 
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