、眼は何処を見てゐるとも思はれぬ虚洞の愚。
△野田九浦――『一休禅師』顔より手にかけて動物的な人間味がある手は思索家の爪の長いだれた感じの手である。
△杉山寧――『秋意』馬はねつとりした皮膚の感じがでゝ、背後に適当なムラをつけたのもさすがである。鮮女を描いたのは俗気にすぎる。
△石渡風古――『おしばな』少女の表情、デッサン、主題いづれも良い、髪の上の色のあせた淡さはさらにいゝ、髪の生え際は美しいが、眉と眼の関係は拙い。
△尾竹国観――『常闇』火の消えるのを防ぐ神々は出てゐたが、火の消えるのを恐怖する表情は出てゐなかつた。
△有元一雄――『錦鯉』よく描けてゐたが、光沢がない。
△下川千秋――『いでゆ』湯殿からあがる湯気で画面の描写を節約した感じ、素朴な甘みはある。
△西垣寿一――『新妓』線の堅さもよい、肩幅の広いきよとんとした田舎女も観察的である。
△小早川清――『春琴』日本の室内の気分がよく出てゐる、ぽつとした中の女の感傷、薄鼠と白襟の妖性色、顔への疲労の現はれなどいゝ。
△下村正一――『雪構』うまいんだが材料に偏してゐる、繩木、枝の交錯に酔ひすぎてゐる。
△稲田翠光――『架鷹』かういふ材料は日本の伝統的なものだけ、新味と新解釈が加はらねば意味がない。
△勝田哲――『茶室』女の指の先に朱をさしてゐるが、その割に顔に若さが現はれてゐない。
△遠山唯一――『木馬ひき』谷の上で木を曳く労働婦人を描いた良いテーマ、たゞ危険な仕事に擁る女の悲惨を感じさせる、絵の実感の効果であらう。
△三宅凰白――『雪合戦』洒脱な線で子供の生活をよく出してゐる、デッサンも確かであり、詩情も豊かである。
△寺島紫明――『朝』すぐれた意図がある、一人の女はレースの腰巻を露出して指を組んでゐる、一人は股に手をいれ一人は履物に指をやつてゐる、額に頭痛膏をはつてゐる、愚鈍な救ひ難い女の生活の三態でその個性が各自よく出てゐた。
△田岡春径――『南総宮谷の秋二題』色感及び線の動きの特長も日本画としての優れた点がこの辺にあらう、たゞ淡彩から極彩へ移るときに失敗がある。
△谷角日娑春――『一日一話』母は良く描けてゐたがモダン娘は足の割に顔が小さきに過ぎる、表現化が深慮に過ぎた。
△菊地契月――『麦ふるひ』左に農具の一端を描いたのは味噌である、伸びきつた姿の農婦もよく、落ちてくる麦の色彩の掴へ方も優れ袖のきれめにも肉感的なものがあり、髪の僅かなほつれもさすがに巧い。
△西岡聖鵑――『渦』波の動きをよく捉へてゐる、自然観察の絵はやはり面白い。
△横内大明――『山静』茶と青とに南画家に珍らしい、いゝ感能がある写実に執着してゐる点、墨の色に近代的な理解を加へてゐる点等佳作を産んだものだらう。
△太田天洋――『国防の覚め』余りに説明的すぎて、作者の調査の努力を見せつけられる感あり、題材の計画としては良いが。
△小早川秋声――『軍国の秋』日本画の仕事といふものは斯ういふ処にあるものではない、その通俗性と世俗性は余りに底が知れてゐる。
△藤森青芸――作者が力んでゐる割に出来が良いとも思はれない、色にリアリティがあるが形が一様である。
△保間素堂――『閑隠寮の秋』一人の女が化粧してゐるが、その手の形の小さゝ、お白粉のつきの悪さ、色の剥げた肩など過去の女を思はせる、古い東洋性の没落を代表してゐるやうな女性を描き得てゐる。
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日本画壇 新鋭作家集


    度胸の良さ 加藤栄三氏

 加藤栄三氏のやうな画家に対して、一体この画家は今後作画上でどういふ動きをするかとか、どの程度に伸びるかとか、予言的なことをいふことは殆んど不可能だ、またさういふ批評態度はむづかしい、その理由はかうだが、加藤氏に逢つた感じの人柄と、その書かれた絵とが殆んど反対の立場にあるといふ印象を受けとる、殊に彼のしやべつてゐる話をきいてゐると全く懐疑主義のやうで、絵に対しては良心の塊りといふ感じがする、どこにものんびりした感じがなく、神経質である上に、変な形容だが、神経や心理の「場面変換」がなかなか激しく細かい。彼は言ふ「風景などの動かないものを描いてゐて、近頃は小鳥が好きになつてそれを勉強してゐますが、ちよつと勝手が違ひますね、小鳥はチョコチョコと動いてちつともじつとしてゐない、しまひには、あんまり動きまはるのが憎らしくなつて、こ奴殺してやらうかと思ふことがありますよ――」いふことがすこぶる気が短かい、だから彼の言ひ草だけを丸呑みにすると、今後は神経質な画風にすすみさうである、しかし一昨年の文部大臣賞を獲得の、新潟の海で描いたといふ「薄暮」が示すやうに、作中の牛の悠久たるさま、彼の作品の図太い神経の丸味は、彼の性格のどこから来てゐるかちよつと疑問に思はれるほどだ、日常生
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