ふのが正しいのである。
 その意味で、春陽会、国展の絵画の沈着き方が、必ずしも芸術の腰が抜けてゐるとは一口に言ひきれないものがある、要するに『激情的なものの価値の高さ』は時には円満な高さに於ても果たせるといふことが、問題として残つてゐる。
 それこそ高い意味での『完成性』といへるだらう、春陽会、国展は、その意味であくまで写実性に喰ひ下つてゆくといふ態度に、強味と弱味とを同時に備へてゐる、そして如何に今後仕事を進めて行つていゝか、問題は簡単だ、これらの矛盾は『写実性』を離脱したいといふ域内で解決してゆくことである。
 超写実をやりたかつたら、他の団体へ行くべきである、写実との格闘が『新しい芸術』を生むことが不可能などといふ不心得な作家はこの団体にはゐないと思ふが、新しい仕事が出来るかできないかは、写実性への喰ひ下りが徹底してゐるか、ゐないかに依つて決まるし、仕事の面白さはそこにこそある、超写実的な現実逃避の作家はこれから随分でるだらう、然しこの新しがり屋の仕事はものの二年とは続いたためしがないのである。
 さうした意味で春陽会、国展の作家はその手法の写実性が悪いのではなく、観念が古いのだといへよう、それを指導してゆく諸幹部また、新しいリアリズムに対する理解がおそろしく欠けてゐるといふことが、この団体を全般的に硬直化させてゐると思ふ。

    春陽会の評

△高木勇次氏――「切断」倉庫街での鉄材切断を描いてゐるが、物質を切断するといふことに対する鋭敏感は認められるがそのために描写法を鋭敏にしなければならないといふ考へ方が既に古いのである、新しい写実家は、そこのところを描法を感性的にせずに、四つに組んでゆくといふ点にある、テーマも良し、感覚も鋭いが、それだけでは駄目なのである。
△新沼杏一氏――『冬の夜』少女達が手芸をしてゐるらしい絵、ケンランたる色彩といふより、ケンランたる現象、我々の視覚をまどはすために仕組まれた絵。
△二見利次郎氏――『作業』の鈍重感は成功してゐる。
△小穴隆一氏――絵の仕上げの丁寧さ位よりとるべきものなし。
△木村荘八氏――『浅草元日』『幽霊せり出し』等の所謂氏の芝居絵である、幽霊せり出しはテーマは賛成だが、氏にして良くロートレックやドガのやうに、この種の社会を庶民的テーマとして引き下げる力があれば面白いが、芝居道の肯定者らしい態度が妙に美しいものより描けてゐない。
△中山一政氏――なんの感覚としての動きなく、これは器である左様、これは水である左様、といつた現実感が産ました絵。
△山田峯吉氏――『T画伯の像』は出色である若し氏にして天才主義者で、芸術至上主義者でなくてさうした画風を描いてゐる人であつたら充分新しい仕事が出来る人である。
△豊泉恵三氏――『婦人像』バックの色感は美しかつた。
△水谷清氏――『印度童女』滑稽な程立派な自信で描いてゐる。
△鳥海青児氏――『南薩山川港』右手の崖と見える色調に不思議なリアリティを発見する以外、こんなに絵の具を何のために盛上げるのか、所謂絵具の盛上の必然性が全くない、彼も遂にこの団体で朽ちるのかといふ感が深い惜しい作家である。
△石井鶴三氏――『常田獅子無』の屏風構図のとり方が洋画畑の人であるといふ意味で新しい形態がある、但し日本画家側から見たらまた意見が違ふ筈だ。
△若山為三氏――少女読書は線の稀薄性が却つて面白い効果をあげてゐる、いへばもつと線を稀薄にする勇気があれば尚面白し。
△山田義夫氏――意図や仕事のしつぷりが新しいが、残念なことには色彩が古い。
 春陽会に出品者は多い、他を評さないのは見落したのではない、問題を提出してゐないのだ、従つてこゝに評した人必ずしも佳作者ではない、良い意味と、悪い意味とのその何れかの問題の提出者であるといふ意味で評した。

    国画会の評

△長谷川春子氏――『ヴ※[#小書き片仮名ヰ、169−下−15]ナスの誕生』は色彩の神経だけをみるとき異色のある作家であることが判るが、をよそその形態のでたらめさは救ひ難いものがある。
△中村茂好氏――『友人』人物の顔の描法と、人物の服や椅子の描法の矛盾、最後まで描きぬかずも投げ出してゐる力弱さ、素朴な態度の良さはある。
△ブブノ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]氏――この絵は、版画的処理をこの油にまで持ち込んでゐるといふ意味で失敗作だらう、油を盛りあげた実力を拝見したい、※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]絵や版画にはすぐれた面をみせるが油では感心できない。
△宮田重雄氏――玄人芸に非ざれば、即ち素人芸なり、つまり絵画の両極性は一つの常識に帰する、何の変哲もなし。
△山下品蔵氏――『椿咲く村』(二)は大いに問題にしていゝ、ナイフの剥ぎとりの上に、更に描
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