をみて感ずるのはかうあつさり片づけられゝば芸術なんて言ふものはなか/\楽しみな道楽だと思ふ『君は何を求めてゐるか』遊戯に始まつて遊戯に終つてゐる『君は何に感激してゐるか』運筆の滑らかさに泥酔してゐる許りだ。
▼(同人)関兵衛君 『ポーズ』此女人裸像は模写にしては上手であるしモデルを描いたものとしては拙劣であるし醜い仕事である『玉葱のある静物』この絵に到つては評者は悲鳴をあげる、水彩『見世物風景』を描いた時代の関君は影も形もないといふものだ。
▼(同人)高橋北修君 この男には日本画だけかゝして置きたいのだが日本趣味だけではお気に召さぬらしいだが油絵画家の柄では無い(もつとも本人が描くのは勝手のことだが)日本画『月に戯れる童女の図』はチョッピリ賞めたいだが洋画ときては『油に戯れる男の絵』である『校庭午後』この絵覘《ねら》ひ処が無いとは言へないが詩情から養つてかゝらなければ到底完成に達すること遠しである『風景スケッチ』かうした計画で観衆を釣らうとしたところで無理だ観衆はそんなに馬鹿でない、この絵一種の『戯画』である二点とも君の醜悪な心情を遺憾なく曝露したものだ気品ゼロ。
▼其他の人の出品もあるが紙面の制限の上から後日にゆずり最後に平沢大嶂氏(東京)の特別出品十点を見せて貰ふ『将雨来』『花』等や『港孤松』『雪の夕』等の日本的な氏の仕事の良し悪は私にはわからないたゞ之等からも『拓けゆく武蔵野』や殊に『花園』に共鳴を感ずる感覚が躍如として一面に重厚で沈静な態度が好きだ『苺』また素朴に朗かに感謝に充ちた絵だ。
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広瀬操吉氏の芸術
来旭した氏のために一文
私はいつか本紙に詩集『雲雀』の作者広瀬操吉のことを紹介したことがあつた。二十三日の夕景その操吉が、ひよつこりと東京から私の家へやつてきた。
『近代詩歌』の四月号に彼の詩『鍋焼うどん』といふのがあり宵暗《やみ》の都市に親子の貧しい、うどん売子の熱いアルミニュームの鍋に、彼が渇いた唇をあてゝ『子がしつらへて親がはこぶなり』とせち辛い浮世の味ひを歌つてゐたので私は彼に旭川の鍋焼を喰べに来いと葉書をやつた。
私は彼に土鍋のうどんを喰べさして見たかつたのだ、だが悲しいことには、最近の旭川の鍋は、土鍋の風味はなく、みなニュームになつてゐる。
だが鍋はニュームに化しても、旭川特有の『夜半の濃霧』の中にまよひ出て、風土の立ち食ひをさして見たい。
彼に遭つて親しくその風貌に接して、彼の好んでゐるアンリ・ルッソオと、彼の人格とを結びつけて私は考へて見た。
のつそりと泥棒よりも静かに、私の玄関口を訪れた、髭もじやの彼の顔こそ私の第一印象は『愚鈍な聡明さ』を思はせ、彼操吉もまたこの熱情の税関吏から、野性といちめんグロテスクな味覚とを収穫したのではあるまいか。
彼はまた、ブレヱクの幻惑に酔ひ、ゴッホの向日葵と燃焼し、ダビンチを愛敬し、グレコを恋慕し殊に私の愉快に感じたのは、操吉が、狐のやうに尖つた顔で絹扇をばた/\動かし、桃色と幻青《あお》との軽羅《うすもの》の女を、好んで描く女画家マリー・ローランサンに惚《ほれ》てゐることだ。
彼の詩並に絵は、彼の恋人の作のやうに幽幻な妖気にみち/\たものである。
私は彼の詩風を他人《ひと》がよく、千家元麿氏の流れをくんだ平明さを追ふものだといふ言葉をきくことがあるが、私はさうは思へない、千家氏からは不用意な素朴さの牽引力を感じるに反して、彼は細心な野性をもつてゐる、この点ではずつと象徴的である。
その例として彼の絵を見ればすぐに判るだらう。
大正九年出版の画集には、この象徴風な実感にあふれたもの、百号大の『若きクリスト』『踞まれるカイン』『苦悩者』『地より出る光』其他の作が発表されてゐるが、いづれも魅惑に富むものばかりで、殊にもつとも構想の雄大なもの『若きクリスト』(銅版はその絵であるが)の彼の友詩人中西悟堂氏の説明によれば『絵の中央には鍬をもてる弊衣のキリスト、足下《あしもと》に獣と鳥とがゐる、鍬は地を耕すことを意味し、獣と鳥とは地上の生物を意味し、しかもこの二種の動物は人間の顔をしてゐて、殊に獣の尻尾には星の燈火が燃えてゐる、絵の下段にはアーチ型に、男性と女性とが腕を伸ばして手を握り合ひ、女性は赤児のクリストを抱き男女の下のは日月星辰と冥府《よみ》の国とがある』かういつた風に豊饒な幻影は尽きることがない、彼れは暫らく滞在して絵を描いていかうといふが、今回は主として風景小前にひたり金銭は度外視の、彼れを真実に愛してくださる人へのみの『油絵頒布画会』をやりたいと思ふ、だが彼れは絵が一枚も売れなくても、彼れの詩情は肥満して帰京するだらう、だが出来ることなら彼れの為めに私は一点でも多く絵を売つてやり
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