ころのB街にはあらゆる娯楽機関があるので、そこへ終業後出かけてゆくといふ、そこで左翼学生はではその間の路はバスででも行くのかね、といふすると答へて、バスではない××電鉄(新設された)の電車が八分をきに通つてゐる、××電鉄では炭礦夫達の娯楽と、B街の繁栄のためその電車賃を殆んど実費にしてゐる、そこで左翼学生は、然し、その電車の利用者は多いかどうかと質ねる、
炭礦所有者の息子は答へて、電車賃は実費にして電車も利用され易いやうに、一ヶ月分のB街行の電車賃××を月給から天引にしてあるといふそこで左翼学生は唖然として、そのやり方は美事だといふ、僕等のいふ娯楽といふのは(文化性)を加味されたもの以外にない、炭礦夫が労働強化の慰安費をまきちらすために設備された、B街の淫売窟や、呑屋や、いつまできいても頭のよくならない浪花節小屋へ彼等の足を運ばすために、××電鉄は電車賃を実費にしてあるのはその政策の腹黒さだ、もし一ヶ月分の電車賃を天引きされた礦夫がそれを完全に使はず山に引こもつてゐたら、この乗らない電車に支払ふ金は丸もうけぢやないか、然も淫売屋へ落ちる金は炭礦主の懐へまた逆戻りだと左翼学生らしい率直さで炭礦主の息子を反駁する、すると炭礦主の息子急に立ちあがつて、そんな議論はよさうとジャズをかけ、そして一同にダンスを誘つて、その話はウヤムラにされてしまふ。
底本:「新版・小熊秀雄全集第一巻」創樹社
1990(平成2)年11月15日新版第1刷発行
入力:八巻美恵
校正:浜野 智
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
2006年3月1日作成
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