しました。野牛は、けふこそ、得意のおしやべりで、みなのものを負かして、王さまの位についてやらうと考へました。
三
四十雀《しじゆうから》、蛙、カナリヤ、梟、山鳩、木鼠《もづ》、虻やら、甲虫、蚊など、どれも得意の話ぶりでしたが、おしやべり上手の野牛には、どうしてもかなひません。それで野牛はますます得意になつて、しやべりだしました。
すると何処からともなく、
『さあ老ぼれ野牛、こんどは俺さまがお相手だ』
とさんざん野牛にむかつて悪口を言ふものがありました。
みるとこの悪口の主《ぬし》は、それはちいさな、一匹のこほろぎでありました。
そのこほろぎは、野牛に殺された樵夫の父親が、杉の大木を半分伐りかけて、やめてしまつた、樹の切り口の奧の方にはひつて、さかんに野牛の悪口を言つてゐるのでした。野牛は烈火のやうに怒りました。
『ぢやあ、チビこほろぎから始めろ』
『よしきた、老ぼれ野牛、さあ俺さまから始めるぞ。昔々あるところに、お爺さんとお婆さんとが住んでゐたのだ。お爺さんがあるとき山へ柴刈りに行つた、どつさりと柴を刈つてさて山のてつぺんで、お昼のお弁当をひらいた。おばあさんの、心
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