三人ともみな逃げ帰つてしまつたのでした、それには色々のわけがあるのです。最初のお嫁さんを貰つた時でした。トムさんは大変お嫁さんを可愛がつて一粒の豆でも仲善く半分頒[#「頒」に「ママ」の注記]合つて食べる程でしたから、お嫁さんも大変満足して居たのでした。
 処が丁度、お嫁さんをもらつて三日目の真夜中頃ミシリ/\と屋根で音がしたと思ふと、天井の空窓から太い繩を下して三人の泥棒がトムさんの家へ忍びこんだのです。三人の泥棒はグウグウ高鼾で寝込んでゐるトムの枕元に立つて不意に枕を足で蹴飛ばしましたので、トムさんは吃驚《びつくり》して眼を覚しました、トムさんは自分の眼の前に背のヒョロ高い顔の真黒い鬚だらけの泥棒がによつきり突き立つてゐるので、トムさんは驚くまいことか、一時は腰を抜かさんばかりに吃驚《びつくり》しました。然しお人善しのトムさんはやがて泥棒に向つて「お前さん方は商売とはいゝ乍らこの真夜中に御苦労さまの事です、まあご一服唯今お茶を差しあげます、然し皆様私は昨夜戸締りもあんなにしつかりしてをいたのにどこから入つて来ました」かう尋ねました。

     (二)
 泥棒達はお互に眼を白黒させて
前へ 次へ
全137ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング