居りましたが、その内の一人が「俺達はこの空窓から飛び込んだのさ」と答へました。トムさんは之を聞いて「それはあぶない所から這入つて来ましたね、一寸表戸をトントン叩いて下されば直ぐ開けるのでしたのに」と云ひました。泥棒達はまご/\して居て隣近所に騒がれては大変とトムさんの家の真ん中へ持つてきた一反風呂敷を各々ひろげまして棚の物やら何やら片つ端から入れはじめました。これをじつとみてゐたトムさんは何と思つたのか、自分も向う鉢巻をして泥棒達と一緒に自分の家の品物を「これもあげる」「あすこにも有る」と大汗でドンドン拠[#「拠」にママの注記]り出したのでトムさんのお嫁さん始め泥棒達何が何やら訳がわかりません。
 さて泥棒達は風呂敷に包めるだけ品物を包んでしまふとさつさと出て行かうと致しました。するとトムさん何と思つたのか泥棒を呼びとめて「お前さん達は案外欲の無い人達ばかりですね、まだ室の中にこんなに品物が残つてゐるではありませんか」といひました。
 すると泥棒達は振り向いて、
「君の親切は有難いが何分俺達は之以上もてないので残念だが、お前さんにお返ししてをくよ」といひました。トムさんは「それはいけない私があげようとする物をもつて行かぬといふ失礼な事が有るものですか……あゝよい事がある私の家の馬車を貸してあげませう」といひ、裏の馬小屋から馬車を引出して之に品物を全部積んで渡しました。然し泥棒達は馬を追ふ事を知りませんでしたから、トムさんは三人の泥棒を馬車に乗せ自分が馬を追つて場末にある泥棒の家まで送りとゞけました。その上馬車を呉れて来て了ひました。
 お嫁さんはトムさんの余りのお人善しにあきれはてゝ、早速実家へ逃帰つてしまひました。トムさんは家へ帰つてみてお嫁さんの逃げ帰つた事を知り大変に一時は悲観致しました。
 それから二年程たつて、又ある人の世話で二番目のお嫁さんを貰ひましたトムさんは、今度もまた一粒の豆を半分宛分け合つて食べる様に仲善くいたしましたので、お嫁さんも大変満足して居りました所が、丁度三日目の事トムさんは用事があつてあるお寺の近所を通りました、するとそこのお寺の椽の下の暗闇に十二、三人の乞食共が荒莚を敷いてごろごろ芋虫の様に寒さうに寝てをりました。

     (三)
 トムさんはこの前に不思議さうに突立つて居りましたが、やがて乞食に向つて「お前さん達はこの寒空にこ
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