もなつてゐる棲架《とまりぎ》の、いちばん上の段に飛びあがつて元気な声で
『さあ、みんな棲架にとまつたか、子供たちは片脚で止まる練習もしなければ駄目だよ、片脚で立つて片脚を休ませ、かはるがはる疲れたらやるのだよ、卵箱の中に入つて寝るのは、弱虫か、病人だよ、元気なものは、いちばん高い棲架に止まるんだよ。』
 とこまごまと注意をしました、鶏たちは、みな素直に雄鶏のいふやうに、なるべく高い横木をえらんで止まり、仲善く肩をすりあはしました。
 雄鶏は、高いところから、婆さん鶏に声をかけました。
『婆さん、地べたにうづくまつて居るのは体によくないよ』
 婆さん鶏は、暗い片隅の湿つた処に、汚れた羽に頭を突込んでまるくなつて眠つてゐたので、かう親切にいひました。
『わしは何処でもよいよ、元気のよいものはせいぜい高い棲架にとまるがよいさ、わしは片足をあげて眠る元気もないんだからね』
 と婆さん鶏はいひました、そこで雄鶏は、地面に寝ては、夜のしめりで体を悪るくすることもあるし、殊に悪いイタチなどが、やつてくることがあるから、棲架にあがりたくなかつたら、せめて糞受板の上へでも、あがつて眠るやうにといひました。
『わしの好き勝手にさして眠らしておくれ、糞受板にあがる元気も、わしにはないんだからね、イタチに喰はれてしまへば本望だよ。』
 と、なかなか強情で、棲架に止まらうとはしませんでした。
 婆さん鶏は、地べたの上に、他の鶏たちは棲架の上に、棲架の上の鶏たちは、自分の羽に首をいれたり、また隣の鶏の脇の下に、首をいれさして貰つたりして、仲善くそして静かに眠りにをちいりました。
 雄鶏は、高い棲架の上から下を見て、みなと一羽離れて、惨めな容子で寝てゐる、強情な婆さん鶏を憎むよりも、なにか哀れな同情の気持になりました。
     *
 夜が明けました、殊にからりと晴れた好天気で、鶏飼人が戸を開くと、ギラギラするやうな日光が、小屋の中にをどりこみました。
 鶏たちは、大喜びで、はしやぎ、柵の中を走りまはつて、わずかの時間まるで気狂ひのやうに嬉しがつて、餌争ひをしました。
 雄鶏は、吃驚りして、声をあげました。
『おい、お前たちは、何をそんなに奪ひ合つてはしやいでゐるんだ、それはお婆さんの脚ではないか』
 鶏たちは、今更のやうにびつくりして、くはへてゐたものを放しました、雄鶏はそこであたりを見廻しま
前へ 次へ
全69ページ中68ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング