ぱな金の冠にピカピカの着物をきて、ゆつたりと腰を掛けてゐます。そしてその傍にはトムさんの夢にも忘れることの出来ない可愛いゝトムさんのお嫁さんが、今ではもう王様のお妃となつて、全部白鳥の羽で出来た真白いキラ/\の上衣をきて座つてゐるではありませんか。トムさんは王様が憎らしくて、また一方では悲しいやら情ないやら嬉しいやらで涙を一杯ためてじつとお嫁さんをみつめてをりました。するとお嫁さんもトムさんの顔をみてにつこりと美しく笑ひました。
 王様はびつくりするほど喜びました。それはこのお妃が御殿にきてから一ぺんも笑つたことがないからでした。
「これ妃そなたは笑つたではないか、何を見て笑つた、さあ今一度笑つてみせてくれ」と妃に向つていひました。
 するとお嫁さんはトムさんを指して「王様あれを御覧下さい、あすこに大変滑稽な姿をした乞食が居るではありませんか、私はあの男を見て笑つたのです……もし王様があの男の着物をきてあの男の代りにあそこに立つたらさぞおかしい事で御座いませう」と申しあげました。
 王様は今一度妃の笑顔をみたいものですから、トムさんを御前に呼び出して王様のりつぱな着物をきせてお嫁さんの傍へ座らせ、ご自分はトムさんの着てゐたボロの服を(六字欠)城門の外の見物の中にお立ちになりました。
 しかし、いつまで立つてもお嫁さんはニッコリとも笑ひませんでした。王様は今か今かとお嫁さんの笑ふのを待つてをりました。しかし、お嫁さんは笑ひません。
 その内に午後六時になりましたので城門はガラ/\と閉ぢてしまひました。
 此処で王様はまんまと城外に追出されてトムさんは王様と早変りしてしまひました。城の兵士達も王様のわがまゝを憎んでをりましたから誰もみなかへつて喜びました。
 不思議なお嫁さんは実は白鳥のお姫さんでした。トムさんは何だか背中がくすぐつたいやうな、着なれない王様の衣裳を着て、自分の思つてゐた通りのお金蔵のお金を全部街の人々に分けてやつてしまひました。そして白鳥のお嫁さんと仲善く王宮に暮しました。何でも王様のトムさんは街の人々全部を御殿に招待して一人宛に握手をし頬ぺたをなめたといふ話です。(大正12年1月23日〜旭川新聞)

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焼かれた魚《さかな》

 白い皿の上にのつた焼かれた秋刀魚《さんま》は、たまらなく海が恋しくなりました。
 あのひろびろと拡
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