お乗りなるとき
アブミに足を軽くそへ
落ちる用意も必要でせう
馬はあなたをフワ[#「ワ」に「ママ」の注記]ンのやうには
大切には扱つてくれませんからね


真杉静枝

あなたは告白小説を書いても
[#ここから3字下げ]
十年や二十年
材料は尽きないはずです、
あなたの人間修業と
[#ここで字下げ終わり]
数々の経験に
[#ここから3字下げ]
光栄が巡つてきました、
毒素を吐きだすのに十年
芳香を放すのに十年
まあ、気永におやり[#「り」に「ママ」の注記]ことですね
[#ここで字下げ終わり]


松原操

霧島さんと華燭の典
何はともあれお目出たう
いはゆる結婚なるものの
世話女房も辛いから
あなたのいゝ声
荒れぬやう
声が二つに割れぬやう祈ります
マダム・コロンビア、


水戸光子

あなたは「暖流」の一場面で
男に心を訴へるに
最新式のやりふりで
『先生ーヱッヘッ』
と笑つたところが
セリフとしては圧巻でせう
精々勉強なさい、
光子さん、
ヱッヘッ、


森赫子

芸と義理との
水車
人に言へない苦労なら
宵の松原
サラサラと
風にながして
芸は達者で、熱心で
せいぜいママを喜ばす
ほんに
あなたはりかう者


矢田津世子

玉子せんべい、紺のれん
ヱリアシ、素足にうつとりし
寿司屋、小間物屋の
お江戸趣味
フラッパーは大嫌ひ
老人の恋心をしきりにかく
散歩の場所も神楽坂
のぼるに苦しく
下るに楽だ


由利アケミ

あなたのやうな良い声と
めぐまれた演技もちながら
日本のカルメン役者は
オペラを探して
さすらひの旅、
日本にオペラ運動がみ[#「み」に「ママ」の注記]ないので
アタラ名優由利さんも
手も足もでないといふ感じ
誰か彼女にオペラを与へよ、
オペラパックでも我慢する


長谷川時雨について

明治、大正、昭和にわたつて
生き永らへて
彼女は依然として
明治の髷を結ひ通してゐる、
歴史三代にわたる
生きたる書庫を傍にをく
大衆作家三上於兎吉も幸せなる哉、
彼女は義理と人情の
保守主義者として
いま最後的な
美しさを放つてゐる
彼女の眼からは
すべての作家も
坊ちやん嬢ちやんに小さく見えるから、
女親分のやうに
若い衆の不仕[#「仕」に「ママ」の注記]末を
優しい眼でハッタと睨んで
――お慎しみなさい、
と叱りつける。


神近市子について

彼女が怒つ
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