等はそれが半分で
半分肉食動物だ
だから時々相手を喰つて見たくなるのだらう
ヨーロッパの知識人
良心的人物はどうしたのか
彼等は歯が全く磨滅してゐるやうに
磨滅した精神で叫びつづけてきた
砲弾の叫びがそれを打消した
ジイドの精神も
下劣な洗濯婆の
おしやべりよりも
もつと不用なものになつた。


泥酔歌

わたしは故郷では
よく何処へでもぶつ倒れたものだ、
草の上へ、
河原の石の上へ、
丘の上へ、
何処も清潔であつた、
冬は白い雪の上へ倒れた
雪に顔を押しつけて
雪マスクをつくつて遊んだ、
いま都会ではバネのはずれた
カフェーの安楽椅子の上に倒れてゐる
青白い顔をした
子宮後屈奴が
ときどき俺が死んでゐないかと
顔をのぞきにやつてくる
曾つて拡がつた心も
すつかり今は縮まつて
いまでは俺の心は
マッチ箱の中に
入つてしまふほどに小さい。
暗い隅から
レコードが歌ひだした
不安なキシリ声から始まつた
哀愁たつぷりのジャズだ
女に歌の題をたずねると
『夢去りぬ――』といふ、
俺はそれをきくと
酔ひが静かに醒めてきた
ほんとうだ――夢は去つたのだ、
とつぜん俺は機嫌がよくなつた、
よろよろと扉をひらいて戸外にでた、
古ぼけた痲痺を追つてゐる
多数の人々の姿を
俺はぼんやりと瞳孔の中に映しだした
夢去りぬ――、俺は蚊の鳴くやうな
小さな声で人々にむかつて呟やいた。


青年歌

青年よ。
屈托のない高いびき
深い眠り――、
眠りの間にも
休息の間にも
生長する君の肉体、
強く思索することを
訓練してゐる学生。
行為はいつも
これらの強い意志の上に立つ
真実に対して
敏感な心は
青年の中だけ
滅びていない。
青春以外のものは
すべて灰色だ。


刺身

海の中を大鯛が泳いでおりました
悠々と平和に
すると遠くでキラリと何かが走りました
大鯛は「シマッタ」悪い奴に
逢つてしまつたわいと
逃げようとしました
向うから泳いできたのは
刺身庖刀でした
庖刀はピタリと正眼に
刃の先を大鯛の鼻にくつつけて
大鯛と刺身庖刀とは
ながい間睨めつこをしてをりました
ハッと思ふ間に
刺身庖刀は大鯛の
左り片身をそいでしまひました
大鯛はびつくりして命からがら逃げました
刺身庖刀は意気揚々と
大鯛の半身をひつさげて泳いでゐました

そこへ鮪が泳いできました
鮪は図体の大きな割に臆病者で
刺身庖刀の
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