達にのこされてゐる
ユーゴーのいふ通りです、
王様達には欠けてはゐるが
愛は平民達のためにあるのだから

世界の中には
男と女との他に何があるだらう。
ふたつのほかに何も想ひ出せない
男同志の協同の仕事は
ありあまる程あるが
女との協同の仕事はまだ少ない。
女を愛した瞬間に結婚し
子供が生れるとは限らない
おちつけ、沈着となつてくれ、
世の男よ、女よ、
『思索と、希望と、仕事と、恋にもつれて人々は暮らす』ユーゴー
恋と仕事とを縺れさせぬやう
社会意識をもつて
愛の生活に明快性を与へよう、

ユーゴーのやうに
愛は率直であつてほしい、
ユーゴーは心を打あけるのに
なんて直截で純であつたらう。
『彼女がよく髪を結へば
僕の心は喜び
拙く結へば悲しかつた――』と
この言葉はどこの裏街の
平凡な男の言葉とも違はない
愛は素朴であり、感動はふかい、
女の髪の結ひ方の出来不出来にも
男の心は躍るものだから――。


愛と衝動と叡智

男の強い衝動よ
腕力よ、
呪はれてあれ、

男は力をもつて
女を押しひしぐことは出来る、
強盗のやうに、無頼漢のやうに
女を愛することは自由です、然し、
孕ますことと、
生活をうばふことと、
この二つの必然を生むのはブルジョア的です、
彼等はこの二つを殆んど同時にやつてしまふ、
わたしたちの愛は
孕ますこと、生活を奪ふことは
いつも私達のイデオロギーの
叡智によつて救はれる、
女よ、あなたは正しいときに、
美しい優しい母親とおなりなさい、
それを貴方は愛人に
要求することを忘れぬやうに、
叡智にかがやいた愛の行動を
愛する人のうちに求めるやうに。


文学の大根役者に与ふ
  ――この詩を指導者らしい顔付の男に――

芝居の花道で
あんまり醜態を演ずるな
文学と政治で引つこみの
つかない大根役者は
何時までたつても
指導者らしい顔つきをして
観客が見てゐないのに
まだ引つこまない
君はなんといふ
極左主義的
一徹短慮な浅野内匠守長矩侯だ
忠臣蔵は筋書どほりやりたまへ
吉良上野介を今こゝで
殺してしまはふとジタバタしても無理だ
とにかく我々は敵の眉間《みけん》だけは
傷つけたのだから
吉良の用心棒に
後から羽掻じめにされたのだから
さう舞台の上で一人で
感情的になつても駄目だ
一応幕にするさ
いつかは吉良を炭小屋のなかから引出して
四十七人は
君の仇
前へ 次へ
全38ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング