人で
雑誌『人民文庫』で
ムコを集めて
ヨメを探してゐるが
写真屋のリアリズムぢや
写真結婚は恨まれますよ、
さう詩的精神を
眼の仇にしないで
修正結構
ヱヤブラシ結構
見合の写真は
精々綺麗に願ひます
一緒になつてしまへば
どうせ馴れ合ふ性格だらうから
私があなたを諷刺したら
只では置かないと
茅場町会館の六階で
仰言つたさうだが
こんな汚らしい首でも
御所望とあれば差し上げたい
もつとも持参する誠意がないから
そつちから下界へ降りて来い。
大森義太郎へ
眼から火がでるほど
貧乏して
足から煙がでるほど
生活に駈け廻れば
民衆の思想も
少しはスパークするだらう、
あなたの唯物論ぢや
どこまで行つても
実験室もの、
フラスコの中のもの
犬もときどきは
棒杭を噛ぢらなければ
歯の琺瑯質が弱くなる
唯物論も噛つた程度でも
相当社会批判の
足しにはならう
手当をなさい
あなたの思想膿漏を
可愛がつておやり
あなたの放浪質を、
味方ではある
亀井勝一郎へ
君の哲学は
糠をかへないドブづけのやうに
永遠に腐つて行きたまへ
君の日本ロマン派の旗は
もう洗濯が利かなくなつた筈だ、
綿々と語ることは知つてゐるが
直さいに語る努力をしない、
生活で忙がしい
せつかちな民衆の味方ではないが、
遺産で喰つてゐる
悠々たる文学青年の
味方ではある、
中野重治へ
なんと近頃の呼吸づかひの荒いことよ、
狼の荒さでなく
瀕死者の荒さをもつて
不安定な悪態を吐く
君は毒舌家でなく
諷刺家となり給へ
但し君のこれまでの思想を
観念主義の粒と
極左主義の骨とを
一度乳鉢で
丁寧に磨つてから
この情緒的なものを
諷刺に有効に使ふのだ、
どのやうに見かけの論争が激しくても
君のもつてゐる思想は
一つの焦点もつくらない
こはれたプリズムを
太陽の光線が避けるやうに
君の感情と思想が
四分五裂の屈折ある文章をかゝせる
君が敵とたたかふことは賛成だが
熊手でゴミを掻きよせるやうに
徒に我々の陣営へ
きたないものを近づけて混乱させる
君はどのやうな戦術家であるのか
島木健作について
彼が裟婆で原稿を売り廻つてゐるときにも
まだ牢獄の中にゐるときのやうに
苦しんでゐる
宿命論者よ、
その良心を人々はかつた、
ジャナリズムは歓迎したし
原稿は売れたさ、
だが牢獄の追憶が尽きたとき
題材がプツリと切れたさ、
ゆらい読者といふものは
惨酷なものさ、
君が宿命論を
卒業するのを内心喜ばないのだ、
今度は君はほんとうに
シャバにあつて
心の牢獄に入る番だ、
二人の感傷家に
――森山啓と中野重治に与ふ――
センチメンタリスト森山啓よ
自分の弟の死を
文章で広告してあるくな
肉親の君より他人の僕の方がはるかに
君の弟を愛してゐたが
一言も文章を書かなかつた
――などといつたら君は驚ろいて
気絶しさうだらう、
愛とは結局理解のことさ、
君の良い養素をみんな
君の弟がさらつて
あの世へ行つてしまつたよ、
のこつたカスは君そのものさ、
センチメンタリスト中野重治よ、
君の思想は
繊維《センイ》だけでできてゐるのではあるまいか、
脂肪や肉をどこへ落してきた
刑務所の便器の中へ
をとしてきたのではあるまい
監房で君は何をしてきた
看守に反抗はしてきただらうが
思策はして来なかつただらう、
詩人でありたいなら
古い感傷から
新しい情緒にかはりたまへ
肉親の君より他人の僕が
君の妹を愛してゐる
などといつたら
君は驚ろいて
気絶しさうだらう
愛とは結局理解のことさ
君の良い養素をみんな
君の妹がもつてゐるよ、
のこつたカスは君そのものさ、
底本:「新版・小熊秀雄全集第3巻」創樹社
1991(平成3)年2月10日第1刷
入力:八巻美恵
校正:浜野智
1999年6月18日公開
2000年11月13日修正
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