とりまぜ豆、豆、豆、
ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、
ジャアナリズムから
三頭橇《トロイカ》でお迎へだ、
お乗りなさい
愛嬌よく
ジャジャ馬は
ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャと
あなたを乗せて
何処までも。


徳永直へ

あなたを未だ曾つて世間で一度も
呼んだことがない風変りな
呼び方を私にさして貰ひたい、
『インテリゲンチャ作家徳永直氏よ』と
あなたはもう印刷工時代のケースの置場所も
忘れてしまつた頃だ、
それだのにみんなはよつて集つて
労働者作家だと胴上げする、
それはあなたの意志に反することに違ひない
そしてあなたを益々
ゴリキーにしがみつかせる
ゴリキーにばかり学んでゐないで、
たまには他のものも学んで下さい
ゴリキーも現実の一部だといふ意味に於てだ
大きな現実に学んで下さい、
もつとも
ゴリキーに尻尾があれば
もつと掴まり易いのだが
それがないのが残念だ。


林房雄へ

なんてこの男は
どこからどこまでも
騒擾罪を犯す男か、
思想的にも社交的にも、
巧みなタンバリン叩きよ、心得たものだ、
彼が太鼓の中心をうてば、
周囲の鈴共は
ヂャリンヂャリンと鳴るのだ、
我々の中で悪態を吐いて愛されてゐる
福徳家は君一人だ、
ところで誰も彼が生理学の
大家だといふことを知らない、
出版記念会の席上で片つ端から罵り
帰りの玄関先で罵つた相手の肩を
『やあ、やあ』といつて
大きな平手で叩く、
馭者が憤つてゐる馬の首筋を
ダア、ダアといつてたゝくと
馬は眼を細くして温和しくなつてしまふ
神経中枢に近い部分を
平手でうつことは
鎮魂帰心のいゝ方法
林にやつつけられて林に肩をたたかれて
気が静まつた相手幾人ぞ
林よ、論敵を馬扱ひにしたから
今度は罵つてをいてそ奴の
耳の下を掻いてやりたまへ
すると今度はゴロゴロと咽喉を鳴らすだらう。


武田麟太郎へ

おゝ、吾が友よ
高邁なる精神の見本そのものよ、
羽織の下に衣紋竿を
背負つてゐるだらう、
肩をいからし
『燕雀、何ぞ大鵬の志を
知らんや』
と呟きつゝ銀座を歩いてゐる
果して彼は
燕雀なりや、
大鵬なりや、
神さまだけがそれを知つてござらう。
泣いてゐる君の小説の素材よ。
君は全身的には政治が嫌ひだが
色眼だけは誰よりも美しい。


秋田雨雀へ

はげしい電光の入り乱れた
日本の解放運動の
どさくさまぎれに、
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