説を書く天分より、若くて乾分を飼ふ
技倆を賞めよう武田麟太郎[#「武田麟太郎」はゴチック]
彼は這ひまはるリアリズムの子猫共を舐めてゐる。
女の羽ばたきの弱さを売文する林芙美子[#「林芙美子」はゴチック]。
神よ、彼女が世界中の男を知つてゐるやうな口吻をもらすことを封じ給へ。
平素は遠雷のやうな存在
思ひ出したやうに作品を堕す
谷崎潤一郎[#「谷崎潤一郎」はゴチック]は御神体のない拝殿のやうに大きい。
依然として布団の中の宇野浩二[#「宇野浩二」はゴチック]
立派な顔をもちながら
モミアゲの長さより顔を出さうとしない。
三等品の毒舌を吐く大宅壮一[#「大宅壮一」はゴチック]は涙の袋さ
つまるところは人情家さ
センチになるかはりに憤慨するだけさ
もつと悪人になる修業しろ。
詩魂衰へて警察歌をつくる北原白秋[#「北原白秋」はゴチック]
歌壇に盤踞《ばんきよ》して、後陣を張る
歌壇組みし易しと見えたり。
帰朝者を迎へるお定まりの三鞭酒は
ポンポン抜かれた
佐藤俊子[#「佐藤俊子」はゴチック]よ、アメリカで育てた
あなたのイデオロギーに栄《は》えあれ。
丸山薫[#「丸山薫」はゴチック]は、だらしのない詩の涎れを
遂に散文の皿でうけた。
政治家犬養健[#「犬養健」はゴチック]は片脚
文学の義足をつけて鳴らしてゐる。
高見順[#「高見順」はゴチック]は事件屋のやうに
人生から問題をさがす
彼の小説は読者をなだめるだけで精一杯。
理論家窪川鶴次郎[#「窪川鶴次郎」はゴチック]は彼女に手を出して
手を噛まれた――小説といふ彼女に
窪川稲子[#「窪川稲子」はゴチック]の嫉妬が小説を書かせるほど
彼女は利巧者で、小説家で
黒襟をはずしてアッパッパを着る
時代性も承知してゐる。
名誉な太宰治[#「太宰治」はゴチック]は
痲痺状態で小説を書くコツを悪用する。
大森義太郎[#「大森義太郎」はゴチック]、実に長いいゝ名前だ
痰切飴のやうにイデオロギーを
柔らかに融かしてくれる。
島木健作[#「島木健作」はゴチック]、君は癩小説のお株を
奪つたものと決闘したまへ
次々と君のお株を奪ふもののために
十二連発で撃ち給へ
しかし自分のために最後の一発を残すのを忘れるな。
正宗白鳥[#「正宗白鳥」はゴチック]は皮肉をいふことの楽しみも尽きさうだ。
旧名須井一、改メ加賀耿二[#「加賀耿二」はゴチック]

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