な心臓の鼓動の昂まりから
人間的な静まりにかへつてゆく、
顔見合せて吐息をつく
あゝ、無事で何の過失も起きなかつた――、
なにが無事で、
どんな過失をのがれたのか
ふたりの前を流れてゐる河は
逆流しなかつたことだ、
太陽は自然の正しい位置に
冷静にほゝゑんでゐる、
たがひに冷静であつたことを感謝した、
私は肉体的に貴女を愛することで
あなたから生活をうばふ権利を
誰からも与へられてゐない、
肉体的であるといふことを
私は少しも怖れてはゐない、
ただ求めないものを
与へないだけだ、
さういう自然さは美しい。


愛と訓練

貴女達の強い性格を
私は好ましくながめる、
あなたは生活を愛し、職業を軽蔑しない、
生産者だから
私は大きな感情で
あなた達を愛することができる、
愛はすべてを単純化したがる
復《ママ》雑のまゝでをかなければ
ならないものまでも――、
だから愛することは
辛く、怖ろしく、
たがひに社会意識を失ふことが
ないかどうかを吟味し、吟味しながら
手がたく愛し合はうとする、
それも又新しい型の階級の本能だらう、
愛の恍惚は生活を忘却してしまふ、
それをぐんと堪へ得るもののみが、
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